バスの中で

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それは生まれ育った田舎の道を走るバス内に偶然死ぬほど好きな人と腰掛けていた。山や川の景色の中バスは走る。時折彼に身体を擦り寄せて幸せな気分を味わっていた。目的地の田舎の町の駅に着いた。彼は荷物を置いたままさっさとバスを降りて行った。私はこんな大事な物を置いて行くなんてとブツブツ呟きながら彼の荷物も持ちながら、運転手に料金を「九百円。」と言われてびっくり仰天した時に目覚めた。夢だった。彼の後を追いたかったのに、またいつもの朝が来ていた。パートに遅れると思いながら思い出して笑った。二月から敬老パスに年間千円で今、住んでいる町はバスにも地下鉄にも一年間乗り放題生活なのである。あんな短距離に九百円ですと言われて動揺してしまっていた。今夜は高いと思わないから、もう一度彼とバスに乗らせてほしいと願っても叶わぬ夢でしかない。消え去って行った彼の少しの束の間の温もりを感じながら霧雨の中をとぼとぼ歩くしかなかった。
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