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 すでに戊辰戦争も一昔と言える時代となっていた。激戦地となった宇都宮も復興は進み、焼け落ちた城跡を見ない限りは、ここで戦争があったことを想像することすら難しくなっている。  いずれ国が国家規模の事業として、この那須野が原開拓に乗り出してくる。その時までにある程度の下地を造り、速やかに開拓を推し進めることができるように下準備をしておくことが鍋島の仕事だった。  当然、住み着いていると思われる幕府の残党の駆逐もその仕事のひとつに組み込まれていた。 「県令閣下。しかし……これは妙です」  護衛を兼ねてついてきていた警官たちの中で、積まれた石を観察していた一人が鍋島に声をかけた。 「どうした?」 「石積みのここをご覧下さい」  警官が示した場所には、そこで踏ん張ったように刻みつけられた巨大な獣の足跡が残されていた。まるで熊かと思うような巨大さだが、その足跡の形は猫のようでもあり、尖った巨大な爪を保持していることがわかった。  奇妙なことに残された足跡はわずかに三つ。どこから来てどこに行ったのかも皆目見当がつかない。何より、測量隊の器具や遺体の上に積み上げたこの石を運んできた人足たちの足跡も残されていなかった。 「幕府残党ではなく、怪異を起こす妖が測量隊を襲ったのではないでしょうか?」  鍋島と共に足跡を覗き見たその秘書官は青ざめた顔でそう進言したが、鍋島は苦笑して頭を振った。
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