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「皆がいる前で埒もないことを申すな」  まだ迷信も信心深さ、闇が強く生きている時代。怪異が発生したとなれば、今後、この那須の開拓は滞ってしまう。しかも、この土地は怪異の中でも特大の因縁がある場所だった。  あの金毛九尾の狐である玉藻の前の終焉の地であり、その遺骸が毒気を放つという殺生石がある。  この那須野が原が荒野である理由も、殺生石があるからだと真顔で答える人間すらいた。 「も、申し訳ございません」  鍋島に注意され、秘書官は慌てた様子で畏まったが、彼が口に出さなくても、この現場を見た警官たちの脳裏には、妖狐の怪異ではないか? という疑念が浮かび上がっていた。 「どんな小さなものでも構わない。犯人を特定できる物を探したまえ」  鍋島の言葉で警官たちはノロノロと動き出し、測量隊を惨殺した犯人を特定する証拠探しに乗り出した。  鍋島はそんな彼らの作業を見ながら、寂しげな獣の鳴き声に気づき顔を上げた。  ひょうひょう……。  捜査にかかる暗雲を暗示するような鳥とも獣ともつかない謎めいたものの寂しげな声に、鍋島は顔をしかめた。
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