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「じゃ何故見たことがあるのかしら?」
不思議そうに首を傾げる雪南に慧は黙って肩を抱いた。
「気にする事はないよ。
其よりこんな大きな荷物、何処に置くのかが問題だね」
「あっ本当。
でもせっかくだら使いたいわ」
雨宮の家は住む人も多い。
それにお手伝いさんや番頭さんの家族も住んでいて家具や家電は何でも揃っていた。
その為に嫁入りの荷物は雪南の身の周りの物と小さな小物入れだけ・・
「足りない物は後から買い足せばいい」
そう言う慧の言葉に両親も何も買う事はしなかった。
「せめて花嫁衣装位はリースじゃなく買って着せたいわ」
母の美也子がそう言ったが、兄のジュニアが一度しか着ないのに勿体ないと止めたらしい。
「まあ部屋は沢山ある。
僕の書斎にと思っていた部屋を寝室にしよう。
それでどうだい?」
「ええ、でも其じゃ慧兄さまの書斎が無くなってしまうわ」
「おいおい兄さまって、明日には僕は君の夫になるんだ、何時までもその呼び方じゃ少し困る。
知らない人が君を僕の妹だと思ってしまうじゃないか」
慧は笑いながら雪南の頭を撫でた。
「僕の書斎は今迄使っていた母屋の書斎を使うからいい。
取り合えず離れの新居にこの荷物を運んで貰おう。
配置は君に任せるよ、いいかな?」
雪南が頷くと慧は家の者に指示を出す。
雪南が家具の配置の為に離れるとキンを呼んだ。
雪南は離れの新居に運ばれた家具と三日前に慧が運んだ家具の入れ換えと配置の確認をしていた。
昔からきちんと手入れされ使い込まれた桐のタンスや三面鏡は其なりに美しかったが、真新しい螺鈿の漆と貝殻の虹色の淡い輝きを放つタンスや化粧台はとても嬉しい。
大きなダブルベットに真綿の布団がしかれ、その上に絹で作られたように透き通るレースのベットカバーが掛けられると花嫁になる実感がした。
粗方部屋か片付くとベットに腰を降ろす。
思わず綺麗な花を編み込んだベットカバーを撫でた。
その時だ・・
「この手触り・・
私・・
この手触りを知ってる・・」
急に懐かしい想いに胸が音を発てる。
ひとりでに涙か頬を伝った。
「ゆっこ・・
どうして泣いてるの?
花嫁になるのが嫌なのかい?」
空耳かと思う位小さな声で誰かが自分を抱き締める気配がする。
初めは驚いて身を固くした雪南だったが、その誰かには彼女の気持ちが伝わるのか、力が少しづつ弱くなる。
しだいに優しく包むように彼女を抱いた。
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