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「魔・・夢・・ちゃん?」
急に懐かしい名前が頭を過る。
けれどその誰かは答えない。
直にフワッとその気配を消した。
(どうして返事をしてやらない?
ゆっこはお前を思い出したかも知れないのに)
贈り物を喜ぶ顔が見たいと姿を消してきた魔夢にキンがそう聞いた。
「良いんだ・・
あの子はもう私のゆっこじゃない・・
それにお嫁に行くんだ、何時までも母親か傍には居られない」
そう言いながら魔夢の瞳には大粒の涙が浮かぶ。
「私の名前はね、あの子が、ゆっこが付けてくれたんだ」
そう言うと先に帰ると姿を消した。
(俺の名だってゆっこが付けた・・
意地っ張りめ・・
嬉しい時には嬉しいと言うものだ)
キンは暖かい気持ちで自分を呼ぶ慧の許へ急いだ。
慧と雪南の結婚式当日・・
龍様の祠の前に笹羅達がブライダルフェアで見たような披露宴会場が出来ていた。
たがそこに人の姿はない。
慧と繋がる魔物やあかし達が座っていた。
(今頃ご主人とゆっこは結婚式の真っ最中かな?)
魔夢とならんでご馳走を食べていたキンが嬉しそうに聞いた。
「ああ、そうだね・・
きっと綺麗な花嫁だ」
魔夢は雪南の花嫁姿を思い浮かべる。
その時だ、ざわざわと仲間達が騒ぎ出した。
「なんだいこんな大切な日に、目の前には居なくてもお前たちや私の大切な人の・・」
「魔夢ちゃん!」
その声に魔夢が振り返る。
真っ白のウェディングドレスを着た雪南とやっぱり真っ白なタキシード姿の慧が立っていた。
(ご主人、どうして此処に?
今頃は街の教会で結婚式の筈じぁ・・)
キンも驚いて慧と雪南を見る。
「慧さん・・」
雪南が慧を見上げる。
慧が頷くと魔夢に向かって走り出した。
「嘘だろ?
そんな・・
私の大切な娘が・・
そんな・・こんな日に・・
私になんか会いに来るだなんて・・」
魔夢の瞳から次々に涙が溢れる。
(魔夢、嬉しい時は素直になるもんだ)
キンはそう言いながらヒレで魔夢の背中を押した。
「魔夢ちゃん、逢いたかった。
私ね、子供の頃から辛いことがある度に声が聞こえたの。
その声はママでも無くて、私にしか聴こえない声で・・
昨日の夜、私達に結婚の贈り物が届いた時、私はまた声を聴いたわ。
そして思い出した・・
私の生まれる前から私を守っていたお母さんみたいな人・・
私が名前をあげた・・
優しくて強い蜘蛛の魔夢ちゃん」
雪南は呆然と立っている魔夢に抱きついた。
「ゆっこ・・
そんな・・私を思い出してくれたのかい?」
「ごめんね、魔夢ちゃん。
私にはジュニアみたいに力なんか無くて・・
前の事も殆ど覚えて無くて・・」
「良いんだ、ゆっこが幸せなら私なんか思い出さなくてもかまやしない」
魔夢は雪南を強く抱き締めた。
(ご主人、式は終わったのか?)
キンは心配げに慧の周りを回る。
「少し時間を作っただけだ。
今から行くよ」
そう言うと優しくキンに触れる。
それから魔物達に向かって祝ってくれる礼を言った。
「キン・・
沢山の祝いありがとうな・・
雪南が喜んでた」
そう言うとキンは嬉しそうに、そして自慢げに慧を見る。
(ご主人は気に入ったか?)
そう聞いた。
慧はああ、とてもと答えた後で、お前達が贈り物をくれた後、他のものも祝いだと沢山の物を送ってくれたのだけどな・・」
(何だ、俺が声を掛けた時には人間の祝等って言ったのに。
で、何が送られて来たんだ?
もしかして俺達が贈ったものより良い物か?)
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