ハテノ薬局の雨が止む頃

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   雨は小雨になっていた。  空は相変わらず厚い雲に覆われている。だが南の空、少し割れた雲の隙間からひとかけらの太陽光が差し込んでいた。それらが海、木々、遠くの街に触れ、灰色の世界に色を付ける。坂の上から見下ろすその光景は妙に幻想的で、美しかった。  辺りを見渡すと、高野さんが雨を避けるように、大きな木の影に佇んでいるのに気付いた。  その瞳は空へと向けられている。あの淡い、今にも途切れてしまいそうな日の光を見つめていた。 「高野さん!」  声を掛けると、高野さんは驚いたように振り返った。  思わず大きい声を出してしまった自分を少し気恥ずかしく思いながら、私は高野さんの元へ駆け寄った。 「びっくりしました……いなくなったかと」  ついそう言ったが、待ち時間の間に患者がどこに行こうと患者の自由だ。  でも、やはり私は高野さんのことが心配だった。いなくなったきり、二度と帰ってこないような気がしていた。  しかし高野さんは、私の心配など無意味だと言うように優しく微笑んでいた。 「ありがとう……でも、大丈夫です。もうあの海岸には行きませんから」  高野さんは後ろを振り返った。  視界には水平線が広がっている。  それは目の前でもあり、遠い遠い世界の光景ようでもあった。僅かな日の光を浴び輝く水面。時折吹く強風に荒々しく飛沫をたてる波。それらは我が身に迫ってくるようでもあり、一方でスクリーンの向こうの届かない世界のようにも感じられた。  高野さんは、少し気持ちが落ち着きました、と呟いた。 「……賭けてたんです。今日、もし適当に入った薬局で薬をもらえなかったら、妻を追いかけよう、って。妻は二年前、遠くに行ってしまいました。もう二度と会えない。それは分かっているんですけど、……追い討ちをかけるように、私も病気になってしまって。なんだか疲れてしまったんです。……二度と会えないけれど、会えるものなら……僅かでも可能性があるなら……会いたい。会いに行こう、と思ったんです。妻に」  
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