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決闘は神聖なる強奪行為なり
うむ、いや、これは案外いけるな。
グチャグチャックチャ。
相変わらず鹿の化け物をかじっていた。
最初はゲロ不味だと思ったが慣れてくるとなかなかの珍味だ。"ウヴァエール"と一緒に飲んだら絶対会うんだろうが。
腐敗臭だと思っていたが、これはチーズとか熟成肉だとかそういう発酵した匂いだな。
歩く熟成肉……いいな。しかも皮が剥いであるとは親切なものだ。
あらかた食べ終わって今は心臓のあたりに入っていたピカピカ光る紫色の宝石みたいなものを口の中で転がしている。
目玉とか舌も案外いけたな。骨はバリバリしてスナックみたいだったし、おやつとして持っていこうとしよう。
で、最初はなんだこれ?と思って心臓の中に入っていた宝石を口に入れてみたがどうやら香辛料的な素材らしい。
五感が麻痺した最上位のハンターである俺でも舐めた瞬間、舌がピリッときた。
これは癖になるなぁ。
ここが何処なのか、モンスターの腹んなかなのか、それとも新大陸なのか知らんが、前の場所だったらハンターが暴れてたら何にも寄ってこなかったというのに。
ここではハンターがいないのか?いや、危機感が低いのか?
空間の歪みに飲まれて、青い空を寝っ転がってみていた頃から俺の感覚はいくつかの大型の生き物の息遣いと、2つの集団の気配を感じていた。
雷を撒き散らしあたり一帯を軽く灰にした時点で鹿のように逃げた生き物と近づいてきた生き物、二つに別れた。
その中の近づいてきた生き物達に、集団のどちらもが俺にジリジリと近づいてきているようだった。
集団になるとバカになるのか?船頭多くして船山登るだったか、プレイヤーに教えてもらった言葉だが、この状況が当てはまるだろうな。
一つの集団は奇声をあげながら行軍もあるかと言わんばかりに好き勝手動いている個々がかろうじて集団を保っているようなものと、息を潜めて動いている人間もどきの集団らしい。
プレイヤー達は、古龍やほかの巨大モンスターどもと一緒で何処からともなく湧いていた存在だ。見た目は俺たちと何も変わらなかったが、独自の価値観と我々とは異なる波動、神を欺くことに被疑感を感じない図太い精神を持っていた。
どういう意味だか知らないが、プレイヤー達は俺たちのことを原住民やらエヌピーシと呼び侮蔑していた。
助っ人として仲間になっていたハンター達にはよくしてくれていたが一般人には厳しかった態度を感じたのか、我々人間達はプレイヤーを称して人間もどきという敬称をつけて影でヒソヒソ言っていた。
一般人からしたらプレイヤーだけでなくプレイヤーと渡り合える我々ハンターも人間もどきだったであろうが、そうは言われなかった。
ともかく、今近づいてきている人間っぽい生き物は人間ではなくプレイヤーとも違う人間もどきらしい。
先に姿を現したのは人間もどきだった。
プレイヤーが舐めプと呼ばれるおふざけをしている時に来てくるような布の服を着ている女二人と見るからに防御力の低そうな金属っぽい鎧を身につけた金髪の男。
モンスターが生活を脅かしてくる世の中で布の服を外で着ている輩は頭が狂っている自殺志望者かプレイヤーだけだ。
恐らく前者だろう、プレイヤーなら今頃一緒になって森を焼いている筈だ。
男の右手を掴んでいる黒いポンチョ的なものに身を包んでた女。その女は頭にトンがったよくわからない帽子を被り、何の意味があるのか先程から口の中で転がしているなかなか美味しい宝石の大きい版的なものを枯れ木に埋め込んだ棒を持っている。腰には本があるが調査依頼でも受けているのだろうか。
俺たちハンターはプレイヤーとは違って脳内にマップが映し出されるわけでもないので新エリアを発見した際にはそこにいるハンターがマップを製作することになる。俺も若かりし頃は本を片手にマップ作りで生計を立てていたものだ。
しみじみしている場合じゃなかったな。
男の後ろ、狙ってくださいと言わんばかりに真っ白な服、袖の長いスカートを履き、キンキラキンの装飾品を首から頭から腕に手につけた悪趣味な女がいる。
胸元は大きく空いていて下品にも乳を見せびらかしているのだろうか。特殊な衣装である。なぜかこいつも棒を持っているが、こいつは棒までも金色で、しかも装飾が入っている。もしかして……流行り?
そして男だが上も下も鎧で左手には盾をつけ剣を抜身にして持っている癖に兜は被っていない。つくづく謎だ。
なぜ兜を被らない?頭が切られても死なない系なのか?
だったとしたらプレイヤーと同じだな。
そういう俺も兜はしていないが、頭を切られれば死ぬ。
俺はどう見ても人間だが、彼らも人間には見える。だが相手は剣を抜いており、男以外は意味不明だが二人の女もやる気満々らしい。
決闘だな。どうやら決闘らしい。
ヒャッハー、有り金全部置いていけ!命が惜しければ装備もアイテムも全部置いていけ!ってやつらしい。
彼らも金欠のようだ。
かつては命と誇りをかけた名誉ある決闘はプレイヤーの介入により地に落ちた。
モンスターに常に人類種全てが脅かされる世界で神は人々に同胞同士で争うことを禁止した。救済措置として神に背く覚悟をもつもの命をかけて争えと言うことで決闘というシステムが世界に導入された。
が、プレイヤーが世界に湧きだしてからしばらくもしないうちに、古参プレイヤーから何かしらの事情により金欠に陥った実力者プレイヤーが決闘で金や物品を強奪し始めた。
その中で先程の有名なセリフが生まれたのだった。
『ヒャッハー!有り金全て置いて行け!』
『これで許してほしい?ダメだお前を殺して全て俺が貰う』
人間として最低だな。だから人間もどきなんかと罵られるんだと言ったのだが真顔でネタだからと言われ大変困惑したものだ。
さて、どうも決闘。
いきなりわけのわからない場所にきていきなり決闘か。悪くないね。
あ、ああああぁ!!
奇襲という概念を知ってから知らずか大声を上げて切りかかってくる男。
ドタバタ走りながら剣を振りかぶり叩きつけようとするその様はまさに舐めプ。
どうせ直前に武器を持ち替えて至近距離で爆弾を起爆してくるとか、行動をキャンセルして高速移動とかそういうやり方をしてくるだろう。
そんな行動はもう慣れきってんだよ!
振りかぶり剣をたたきつけようとしている男の腹に蹴りを入れるとぐもった声をあげながら吹き飛び地面を何度か転がって動かなくなった。
女達が泣きながら詰め寄っているのが見える。
敵の前で仲間を救助している場合なのか?
いやそれより、マジか。よっ………わ。
いや弱すぎだろう。なんで決闘してきた?
今ので死んだのか?
いや咳き込んでいるらしい。まだ生きている。
俺はトドメをさすためゆっくりと近づくと黒いポンチョを着た女がキッと睨みつけ何かを唱え始めた。
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