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「やれやれ……。何処かへ引っ越しだな……」
その時、後方から、すごい音と共に一機の飛行機が、アンテナすれすれに通過した。
真っ黒なボディの爆撃機だった。
ジョニーは全速力で上昇して、なんとか、その機体に追い付くと、翼の一部に開いていた穴に入り込んだ。
ジョニーが間借にしていたアパートの、すぐ裏に軍の飛行場があり、爆撃機はそこから離陸したばかりだった。
だから、ジョニーにも追い付くことが出来たのだ。
「なんか分からないけど……助かった……って感じ……。この飛行機を利用すれば、かなり遠くへ引っ越せるかも……」
ちなみに、ジョニーが落ち込んだ穴というのは、操縦席の近くの凹だった。
やがてB国に入った時、操縦席の窓が開いて、男の声が聞こえてきた。
「今、僕の国とこのB国とは戦争しているが、僕は人殺しは大嫌いなんだ。
だけど数日前に上官から……
おいトム、この雨が止んだら、B国に新型爆弾を落とすぞ。操縦士はお前だ。
……って、出撃命令が出てしまった……。
僕は、その時、決心した。
命令に反対いて、この爆撃機から、僕の大好きなモノを降らそうと……。
戦争の無意味さを、訴えるために……。
しかし……こんな事をした僕は多分、処分されるだろう……。
だから、このままA国を捨てるつもりさ……!」
そう独り言を口にしたトムは、何か動作を始めた。
ジョニーは、良く分からないまま彼を見詰めていた。
やがて、スーツ姿のトムは、爆撃機をB国の上空で旋回させながら、根が付いている小さな花々をどんどん、まき始めたのだ。
ジョニーが下を見てみると、B国の街の人々は、空から降ってくる美しい花々に歓声を上げているようだった。
1分ほどで、小さな花々をまき終えたトムは、つぶやいた。
「こんな事で……戦争が無くなればいいんだが……」
溜め息をつくと窓を閉めた。
ジョニーは、引っかかっていた一枚の花びらを食べながら穴の底に戻った。
B国の上空を旋回していた爆撃機は、やがて遠くへ……と飛び去っていった。
この事を聞いたA国の軍部の者が、トムの自宅を調べたところ、広い花畑があった庭には一輪の花も、無くなっていたのだった。
まもなく戦争は終結した。
A国からプレゼントされたと思い込んだB国の王様が、返礼として『終結宣言』を出したから……ではなく、軍資金が底をついたからだった。
実はA国も、軍資金が乏しくなっていたので、この『終結宣言』を喜んで受け入れた。
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