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◇
「――じゃあ、離れて」
「本当に離れたかったら俺に噛みついてでも逃げるでしょ普通は。でもそれしないってことはみっちゃん、どういうことかまだ分かんない?」
「だからそんなこと自分で言ってアンタ恥ずかしくないの?」
「全然?」
ワザと私を挑発するような言葉のお返しに、雄飛の身体を力の限り押し退けてリビングへと戻る。
そしてポケットに入れていた携帯を手に取って、私は母に連絡を入れる。
彼が負けじと何を決心したのか知らないけれど、だからと言って私の意志が変わるわけじゃない。
そもそも最初に私の元を離れていったのは、雄飛自身だ。
「あ、もしもしお母さん?いきなりごめんね。この前言ってたお見合いの話、なんだけど。あれ私受けるよ」
「はぁ?」
「……うん、そう返事しておいてくれる?…うん、じゃあまたね」
芸能界に入ろうとした理由を、昔彼に聞いたことがある。
小さい頃はどんなに仲の良い女友達よりも雄飛と一緒に居る時間の方がはるかに多かったから、何の相談もなかったことが悔しかった。
「――へぇ、目の前で大胆なことしてくれんじゃん。美優」
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