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「――そうなんだ。じゃあ今度2人で行ってみようか」
「ほんとですか!……楽しみです」
「僕もだよ。こうして美優さんと食事しているだけで楽しい。今まで仕事しかしてこなかったから」
お母さんから前々に話を貰っていたお見合いの件は、予想外に上手くいっている。
今日で会うのは3回目。見るからに誠実そうな3つ年上の悠人さんは、医者という多忙を極めた職業を熟しながらも、その合間を縫って私を食事に誘ってくれる。
悠人さんのお父さんが、私の母親の主治医を担当していることから始まった話だったらしいのだけれど、彼は慣れた手つきで空になった私のワイングラスにそれを注ぎながら言った。
「美優さんと出会えて良かった」っと。
そして、『俺も本気を出す』と馬鹿な宣言をした雄飛は、私の警戒心を余所に何か仕掛けてくることは一度もなかった。
その代わりと言えるのか、前以上に仕事の幅を広げてより多忙人間へとなっていっている。
――それで、良いんだ。
有名なブランドの広告塔として大きな看板に写っている雄飛の顔を、上から眺めるその他大勢の1人である私との距離はきっと、今のこのくらいが正しいと思うから。
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