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「ゆう……ひ、やめて!」
「……」
「んんっ、いい加減に……して!離れてってば!」
精一杯の力を振り絞って、目の前に立ち憚る雄飛を思いきり押し退ける。
彼がよろめいた一瞬の隙を突いて、私は慌てて距離を取った。
「みっちゃ……」
「最低だよ、やっぱりアンタは!」
肩で荒く呼吸をしている姿を見られたくなくて、顔を真っ赤にしていることを知られたくなくて、もう一度雄飛を突き飛ばす。
今まで何度、そんなことを言ってこんなふうにたくさんの女とキスを交わしてきたんだろう。私を、雄飛の中にいる“その他大勢のうちの一人”にしないでほしい。
そんなのまっぴらごめんだ。
「……なーんてね、嘘だよみっちゃん。そんなに本気にしないでよ痛いなぁ」
「このろくでなし」
「ハハッ。ろくでなし、ねぇ」
そのあと、雄飛は「やっぱ帰るね」と言ってそのまま私の家を後にした。
私は何も、言わなかった。
追うことも、もちろんしない。
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