クッキングアシスト

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「……本当に美味しい」 あまりの美味しさに思わず顔が綻んでしまう。 「栗原(くりはら)、えぇ顔して食べるなぁ」 「え! 私の名前、知っているの?」 「知っとるわ、同じクラスや」 「そ……そう、だけど……」 (嘘嘘嘘~~!!) 一度も喋ったことの無い私の名前を知ってくれていたことになんだか感動してしまった。 だけどそういう気持ちを悟られたくなくて私はひたすらチャーハンを食べ続けた。 「ほんま、えぇ喰いっぷりや」 「あっ! つ、つい……」 「えぇねん。一生懸命作ったもんを美味い顔して食べてもらえるんは作った側からしたらごっつう幸せなことやで」 「それ!」 「へ? どれ?」 「あっ……いえ……なんでもない、です」 「? ほいでなんであんた調理実習室でチャーハンなんて作ってんの」 「あ……あの、実は私、料理部を作りたくて先生に許可申請中なんです」 「はぁ? 料理部? なんでまたそんなけったいなもんを」 高城くんは目を丸くしながらも先を訊きたいらしく、近くにあった丸椅子を引き寄せて座り込んだ。 大した理由ではないから話すのは恥ずかしかったけれど、何故か高城くんの真剣な顔を見たらつい話してしまっていた。 「……夏休みにお母さんが一週間入院したことがあって、そのために家事の一切を私がこなしていたんですけど、こと料理に関しては全くの初心者で…。初めて作った料理が……その、とても人間が口にするものではなかったにも関わらずお父さんは『美味しいよ』と言って全部食べてくれたんです。それもすごくいい笑顔をして。それを見たら私、本当に美味しいものをお父さんに食べさせたくなって……それで学校にはない料理部を作りたいと思ったんですけど、先生が言うには部を作るには部員が最低でも5人は必要だって……」 「5人? 楽勝ちゃうんか? 友だち誘ったらすぐ集まりそーやんか」 「それがみんな全然興味を示してくれなくて…。だから更に先生に相談したら今度の文化祭で個人出店という特別枠を許可するからそこで料理を振舞うついでに部員の勧誘をしなさい、と助言を頂いたんです」 「ほぉーえぇ先生もいたもんや」 「はい。家庭科の早瀬先生は料理部創設には賛成で何かと応援してくれているんです」 「ほんでそのための特訓かいな」 「はい。……でも中々上手くいかなくて」 「チャーハンに餡子──やもんなぁ」 不意にプッと笑われたことに胸がズキッとしたけれど、高城くんのその笑いは人を馬鹿にしたような辛辣なものではなかった。
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