遠くへ憧れた日

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遠くへ憧れた日

 遠くへ行きたいと思っていた。  そうは思っても、私がこの修道院に入ってからは遠くへ行くことは出来なくなってしまった。  机の上のノートと向き合いながらぼんやりと昔を思い出す。遠くへ行きたいとあれほど思ったのは、自分に拳を振るい、厳しく当たる父がいたからだ。それを思い出すと視界がゆれそうになる。  ふと声を掛けられた。顔を上げると目の前には、姿形は父に似ているけれども、いつも私に優しくしてくれる先輩がいた。  鐘の音が鳴る。ああ、朝の勤めの時間だ。 「一緒に行きましょう」  そう言う先輩と共に部屋を出て、祈りをあげるための聖堂へと向かう。  私に笑顔を向ける先輩を見て思う。  この人の側にいる限り、遠くへ行く必要は無いのだ。
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