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 港那伽署4階にある通称「久我班部屋」に、およそ1週間ぶりに足を踏み入れた時、不覚にも志馬は懐かしさを感じてしまった。薄暗い蛍光灯、雑然と積み上げられた段ボール箱、ブルーシートで覆われたままの、先の爆破事件で破壊された壁。寮に帰った時も、ここまでほっとしたりはしなかった。これが「馴染む」ということなのだろうか? 「はよございまーす」  ちょっと複雑な気持ちで、だがいつものように声を張ると、既に登庁していた久我、椎野、明智が、パソコンの画面から目線を外し、志馬へと顔を向けた。 「おはよう、志馬君」 「おまえ、顔がむくんでるぞ。寝不足か?」 「志馬のことだ、きっと夜通し秘蔵の薄い本を──」 「なんだ、薄い本てのは?」 「薄い本というのは、漫画やアニメの成人向け二次創──」 「わああああっ!」  明智が邪推するように、成人向け同人誌を夜通し読んでいた訳ではないが、「薄い本」を知らない純真無垢な椎野にいらぬ知識を植え付けるのはどうかと思う。志馬はぎろりと明智を睨んだ。 「なんだ、図星か」 「(ちげ)ぇよ」 「照れるな」 「照れてねえ」  むすっとしたまま、自分のデスクにつく。山荘での一連の出来事を、報告書にまとめなくてはならない。  パソコンを立ち上げながら、志馬は自殺志願者たちの顔を一人ひとり思い浮かべた。
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