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 須藤実緒(みお)はひどく混乱していた。  この山荘に来てからというもの、不眠症だったのが嘘のようにひどく寝付きが良く、この日もベッドに入ってすぐ眠りに落ちていた。  どのくらい眠ったのか──ふと目が覚めると、あまりの息苦しさに無意識に手足をばたつかせていた。みるみる顔が鬱血し、酸素の供給が途絶えた肺が悲鳴を上げる。  一体何が起きているのか事態が把握できず、苦しみから(のが)れようと渾身の力を振り絞り、体の上に乗っていたモノを振り落とした。突如として気道が確保されたことにより激しく咳き込んでいるところで、乱暴にドアが開いた。 「おい待てコラァ!」  この声は、聞き覚えがある──確か「志馬」と名乗った。激しい頭痛と咳に込み上げてくる吐き気をどうにか抑えながら、須藤はようやく顔を上げた。涙どころか鼻水さえも流れていた。  暗い室内に、シルエットとなって浮かび上がったのは、窓の外に身を乗り出している志馬の姿。須藤は慌てて枕元にある照明のリモコンをつけた。まばゆい光が目に突き刺さる。 「大丈夫ですか!」  同じく目をしばたたきながら、志馬が駆け寄ってきた。須藤はロングTシャツの袖口で顔をぬぐいながら、荒い息の合間に「ええ」とだけ答えた。 「すみません、取り逃がしました……」  1階の部屋である。追いかけることは容易だが、他に共謀者がいる可能性を考えると、須藤を一人置いていく訳にはいかなかった。 「あ、あの……一体……」  直前まで眠っていたのだ、今のこの状況を正確に把握できなくて当然である。志馬は須藤を怖がらせないよう、床にぺたりと腰を降ろした。
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