予言

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予言

ここは山に囲まれた村。 大人達はこの村のことを皆、陸の孤島、と言っている。 子供たちは村の外へは行ってはいけないと言われながら育てられるため、村の外を見たことがないまま大人になる人間がほとんどである。 そんな孤立したこの村に鉄道の建設を始めるとの情報が流れたのはちょうど1年前。 きっかけは村のある占い師の予言だった。この村は近いうちに食糧難で滅ぶと予言したのだ。その占い師は去年の大地震も予言していたこともあり、村には一気に緊張感が走った。そして、その予言のとおり、餓死による死者が出始めた。悪天候が続き作物が育たず、食糧が尽きたのである。 そこで、これ以上の死者を出さないために村外からの物資調達が効率的にできるよう、鉄道建設の話が浮上した。物資調達だけではない。それは村外への移住を夢見る村人を応援するためでもあった。 村長の権力で村外からの技術者の派遣を要請し、一両編成の列車と一本の線路がなんとか完成した。 書物で見たことのある列車のイメージとはかけ離れていたが、村の外の遠い場所を夢見る僕達からしたら大きな希望だった。 そして今日、抽選で選ばれた四人が第一乗車者として村外に出発する。 僕はなんとその一人。 待ちに待った日だ。 荷物は重いが気持ちは軽い。 あんなに鬱陶しく思っていたセミの鳴き声さえも祝福してくれているように聞こえる。 見たことのない遠い場所を夢見て、山に囚われたこの村を今日出発するのである。
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