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誕生日何欲しい?
岩澤は尋ねられたが、答えられない。
シャープペンの芯であるとか、明日の夜食のカップラーメンであるとか、日常の些末な欲しいものは色々思い浮かぶが、誕生日プレゼントとしてほしいものは何も浮かばないのだ。
そもそも、岩澤は高校までは基本的に両親からプレゼントを贈られるのみだったのだ。
友達からメッセージを貰うことはあっても特別にプレゼントをなんていう経験は無かった。
だから、自分の部屋でゴロゴロと寝転がる恋人に問いかけられても咄嗟に欲しいものなんて、岩澤には何も浮かばなかった。
「なんでもいいよ。」
そもそも、何かを貰えるような関係なのかも怪しかった。
好いて好かれてというよりは、身近にいたゲイ同士がくっついただけの様な関係だった。
大学のサークルで出合った二人は、直ぐにお互いが、そうであることに気が付いた。
それ以外の接点はあまり無かった。
皆川の見た目の恰好良さもあって、意外な組み合わせだよなと周りに言われることも一回や二回じゃなかった。
勿論それは、友人同士としての軽口だと岩澤は知っていた。
けれど、それが岩澤と恋人である皆川の普通の評価だと思った。
どちらかといえばやぼったい自分と、高校ではクラスの人気者だっただろうなと分かる皆川。
なにもかもが違っている様に思えたが、皆川と過ごす時間はとても楽だった。
それは、皆川にとっても同じだったと岩澤は思う。
現に、毎日どちらかがもう一方の家に入り浸ってゴロゴロとしているのだ。
だから、恋人らしい誕生日に贈り物をして祝うということをするつもりがあるらしい前提で尋ねられても、何も答えられない。
岩澤の口からでたのは、何でもいいという一言だけだった。
「折角付き合いだして、初めての誕生日だから何か特別なものを贈りたかったんだ。」
もごもごと言いだした皆川の顔は赤い。
つられて岩澤の顔も赤くなる。
「いや、そこまで気を使う程の間柄じゃないだろ。」
恋人というもの自体に憧れて、恋人らしいことがしたいというのと皆川はどこか違っていた。
確認半分、照れ隠し半分で岩澤は皆川に答えた。
「間柄じゃないって何だよ。」
ぶっきらぼうに皆川は返す。
「好きな人に贈り物をしたいって別に普通のことだろ?」
皆川にはっきりと言い切られて、変な声が出た。
今、はっきりと皆川は好きな人と岩澤に言った。
え? 皆川俺のこと好きなの? だって、俺ら付き合ってるの、お互いにゲイだからじゃないの?
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
体全体が熱い。
こんなこと、皆川とセックスした時だって無かったのに、岩澤はうろたえていた。
「皆川、俺と付き合ってるのってゲイだから、じゃねーの?」
岩澤の口から出た声は、思ったより小さくて不安げだった。
「ゲイだから男のお前と付き合ってるけど、一々好きじゃない人間と恋人になったりしないしなあっって!?」
どうしたの!? と心配されてもなんて答えたらいいのか岩澤には分からなかい。
皆川は起き上がると岩澤を抱えるみたいにして立ち上がらせると、両側のほっぺたをつねって引っ張る。
「いひゃい。」
「もしかしなくても、俺がゲイだからなんとなく岩澤と付き合ってるって思ってた?」
岩澤はずっと思っていた事を、皆川に言われて、ごまかす事ができなかった。目を見開いて、岩澤は静かに一回頷いた。
「そんな訳無いだろ。」
皆川は岩澤の頬をつねっていた手を離してから、言った。
苛立っているというよりその声はさみしそうで岩澤は胃の上あたりがギュッとする。
「岩澤は俺のこと好きじゃないのに付き合ってたの?」
「そうだよって言うつもりだったんだけど、なんか違うっぽい。」
岩澤の心臓は破裂しそうな位脈打っていて、好きじゃないなんて嘘でも言えそうになかった。
「まあ、付き合おうって言ったとき、俺のこと好きじゃなかったのは知ってたけど……。」
そう言って笑った皆川には多分岩澤の気持ちは筒抜けで、それが恥ずかしくて、岩澤は皆川の胸に顔を埋めた。
「――誕生日、いっぱいお祝いしような。」
皆川が耳元で優しく言った。
了
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