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キャハキャハと、娘の海咲が笑う声がする。
海咲はまだハイハイを始めたばかりで、動けるのが嬉しいらしく、あっちこっちに行ってしまうから、妻の咲良がとても手を焼いていた。
男がソファで新聞を読んでいると、海咲は小さな体でよいしょよいしょと頑張って男の膝によじ登ってくる。そして、男の顔を見てキャッキャと笑うのだ。
愛おしさが募った。
男の頬を引っ張って遊ぶ海咲を、咲良がたしなめる。
「ダメよ、海咲。お父さん、疲れてるんだから」
男は、はっはっと笑った。
「大丈夫だよ。むしろ疲れが吹き飛ぶ。どうせ女の子は、思春期になったら嫌でも父親を嫌うだろう?今のうちだけだ、こうして慕ってくれるのは。なら、思う存分遊んでやろうと思ってね」
まぁ、と言いながらも咲良の顔には笑顔が浮かんだ。
「それよりどうする?今日は食パン焼く?それともそのまま食べる?」
「焼こうかな。君は?」
「私も焼くわ」
じゃあ僕が焼く、と言って海咲をどかし、トースターを開く。
穏やかな休日の朝だった。
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