月曜日の「思い出」

4/4
前へ
/15ページ
次へ
カウンターに突っ伏した腕に、男の涙が伝う。 青年はそれを、黙って見ていた。 しばらくして男が起き上がる。 「…夢は、いかがでしたか」 男は涙を拭った。 「とても良かったよ。幸せな日々を思い出せた」 今はもう、自分にあんな朝は訪れない。休日も仕事だし、たまの休みにも寝てばかりだ。 「そうですか。楽しんでいただけて、なによりです」 青年はつぶやくように言った。 男は微笑んで立ち上がった。 「お代は、幾らかな」 「コーヒー一杯で、三百五十円になります」 男はきっちり払うと、扉に手をかけた。 出ていく前に、青年を振り返って尋ねる。 「そういえば、君は一体何者なんだい?見させてほしい夢を見せてくれるなんて…」 青年は微笑んで、人差し指を唇にあてた。 「それは、企業秘密です」 男はふふっと笑った。そして、そうか、と呟いた。 不思議は、不思議のままで、いいのかもしれない。 今度こそ、男は、カランカランと扉を鳴らして、扉の向こうの、眩しい光の中へと歩いていった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加