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発した台詞に後悔しても、もう遅い。
『ぁ、は……っ、苦し……っ』
角度を変えて何度もキスをした。
思う存分苦しめばいい。
溺れて、翻弄されて。
そうして。
やっと、"俺"が満足するのだから__。
『……、ア……キト……っ』
息が上がっていた。
『長距離でも走られまし__』
『ぉ、前のせぃだ。馬鹿……っ』
『……』
馬鹿、ですか。
まぁ、いい。
『御主人様、お名前をお伺いしても?』
その口を強引に開かせ、舌を入れる。
その都度、彼は頬を赤く染めて。
『ん、は……っ ソウ、ヤ……っ』
***
今更だが、思う事がある。
本当に。
本当に、主人以外に暮らしている人がいなくて良かった。
もしも、誰かに見られていたら、その時はどうなっていただろう。
下手したら、主人を襲っていると言われても何も言えない。
もしかしたら、解雇以上だったかもしれない。
自分でやっていながら、焦っている。
そんな自分に嘲笑がこみ上げてくる。
何と無く感じた、背後からの視線。
もちろんこの城には__この書斎には、自分と主人の二人しかいない。
だから。
「どうかなさいましたか?」
振り返り、予想通り自分を見つめている主に問いかける。
視線が交わったその瞳は、何か言いたそうで。
「別に……」
言いたそうな目をしてるくせに。
「そうですか?」
ほら。
「……っ」
再度問いかければ、図星だからそうやって黙るんだ。
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