恣意的な主人

1/8
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ

恣意的な主人

__" 大切に育てられた小鳥 "。 それは今も変わらず大切に扱われ、一人、大きな箱庭の中に。 円柱状の城館で日々を過ごし、その城内には彼以外誰一人としていないと聞いた。 特別、彼が何かしでかすと言うわけてもなく、ただ『次期当主として相応しい人物になって欲しい』と言う意味で、その少年に害を与えないように、孤独に生活させているらしい。 城の周りは、一見、木々に囲まれているだけだと思いがちだが、その木々の向こうに出口はない。 分厚い塀__壁に阻まれ、城から抜け出すことは愚か、外部からの侵入も不可能。 その箱庭から出入りできるのは、二人の門番が睨むたった一つの門のみ。 "あぁ、可哀想に……" そんな新しい主人について聞いた時、そう思わずにはいられなかった……。 *** 『我が子を頼みます』 主人の母君の言伝。 『はい』 それをしっかりと胸に刻み、章刀(アキト)は今、独り暮らしている主人がいるであろう応接室の前に立つ。 小さく息を吐くとドアの側に立ち、それを3回ほど叩く。 返事は、すぐに返ってきた。 「どうぞ」 今日、初めて顔を合わせる新しい主人の声。 聞くところによると、相手は4歳年下で身長も自分より少し低いらしい。 許可が下りたので、章刀は躊躇なくドアノブを捻った。 「失礼しま」 「やぁ」 テラスの奥から顔をだし、微笑んでいる少年。 「……」 今、さりげなく遮ったか……? 聞き間違い、と言うことにしておこうか。 「……お初にお目にかかります」 「うん、そうだね」 「那々瀬(ナナセ) 章刀(アキト)と申します」 それは礼儀。 章刀は自分の胸に右手を当て、片膝をつき頭を下げる。 これは、自分の主に対する忠誠を意味するもの。 「章刀」 不意に、この身に降る囁きにも似た声音。 「はい」 その声に応じ、頭を上げた瞬間__通り抜けた言葉。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!