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恣意的な主人
__" 大切に育てられた小鳥 "。
それは今も変わらず大切に扱われ、一人、大きな箱庭の中に。
円柱状の城館で日々を過ごし、その城内には彼以外誰一人としていないと聞いた。
特別、彼が何かしでかすと言うわけてもなく、ただ『次期当主として相応しい人物になって欲しい』と言う意味で、その少年に害を与えないように、孤独に生活させているらしい。
城の周りは、一見、木々に囲まれているだけだと思いがちだが、その木々の向こうに出口はない。
分厚い塀__壁に阻まれ、城から抜け出すことは愚か、外部からの侵入も不可能。
その箱庭から出入りできるのは、二人の門番が睨むたった一つの門のみ。
"あぁ、可哀想に……"
そんな新しい主人について聞いた時、そう思わずにはいられなかった……。
***
『我が子を頼みます』
主人の母君の言伝。
『はい』
それをしっかりと胸に刻み、章刀は今、独り暮らしている主人がいるであろう応接室の前に立つ。
小さく息を吐くとドアの側に立ち、それを3回ほど叩く。
返事は、すぐに返ってきた。
「どうぞ」
今日、初めて顔を合わせる新しい主人の声。
聞くところによると、相手は4歳年下で身長も自分より少し低いらしい。
許可が下りたので、章刀は躊躇なくドアノブを捻った。
「失礼しま」
「やぁ」
テラスの奥から顔をだし、微笑んでいる少年。
「……」
今、さりげなく遮ったか……?
聞き間違い、と言うことにしておこうか。
「……お初にお目にかかります」
「うん、そうだね」
「那々瀬 章刀と申します」
それは礼儀。
章刀は自分の胸に右手を当て、片膝をつき頭を下げる。
これは、自分の主に対する忠誠を意味するもの。
「章刀」
不意に、この身に降る囁きにも似た声音。
「はい」
その声に応じ、頭を上げた瞬間__通り抜けた言葉。
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