食べる

4/9
前へ
/9ページ
次へ
「こんばんは。隣いいですか?」 ニコニコと人当たりが良さそうな眼鏡の(ひと)が声をかけてきた。 「あ、はい……」 少し腰を浮かして、横にずれる。 「それ何飲んでるの?」 「トマトジュースです」 「トマトジュース? 珍しいね」 と眼鏡の男は笑った。 「こういうとこ初めてなんですか?」 「そ、そうなんです。ちょっと緊張しちゃって……(嘘だけど)」 「そうなんだ。良かった僕も初めてで……よろしくね」 その眼鏡の男は「ハァ」と小さく息をついて、ビールをゴクゴクと勢いよく飲んで「ゲフッ」と手を添えるでも、横を向くでもなくげっぷをした。 んん? 緊張してて勢いよく飲んだから、出ちゃったのかな? イヤ、違うぞ、こいつ……今、口に放り込んだフライドポテト。クチャラ クチャラと咀嚼音が凄い……。 こういう一見人当たりが良いのに、音を立てて食べたりげっぷを平気でしたりする人は、自分が見えてないのに、人からは良く思われたい。この手のタイプは極端な人だとモラハラとかしちゃうの。そう長年食べる姿を観察してきた、私の勘が言っているわ! 早々にこの人からは離れよう……。 「ちょっとすみません。お手洗いに……」 「あぁ……」 引き止めたそうな声を置き去りにして、そそくさとその場を離れた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加