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バタンッーー
「ハァーーーーーーッ」
トイレの個室に駆け込むと大きな溜息をついた。
「付いてないな。今日は全然良い人いないな……」
カツカツと小気味良い足音とともに、話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、良い人いた?」
「全然よ。んふっ! あのグレーのスーツにシマシマのネクタイした人分かる? なんかすっごい脂ぎっててキモくなかった?」
「あ! いたいた! 話し方もすっごいおどおどしててさ、アレは無いは……」
「あとさ、紺のスーツの背の高い人。一見良さげ何だけど、スマホにさ、着信があったのが見えちゃったの。そしたらさ『ママ』って! 登録してあるのーっ!!」
「えー! マザコン? ヤダー……あたし、向こうの親と同居なんて絶対したくないし……マザコンなんてあり得ない……ムリムリムリムリ!」
「何か今日はダメだね。帰ろっか?」
「そうする?」
「そうしようか!」
ガチャガチャと口紅やファンデをポーチにしまう音の後、甘ったるい香りを残してお喋りの主たちは出て行った。
食事をする席にこんなに香水を付けてくる女って、お料理出来なさそうって思う。だって、自分がどれくらい香害を撒き散らしてるか分かってないってことは、嗅覚が相当鈍いって事だと思うの。嗅覚が鈍ると味覚も鈍る。だから、彼女たちの作るお料理はきっと美味しく無いと思うの。
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