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―*―
「なるほどね~それがノア姉との馴れ初め?」
「ああ、そうだ」
「大変だったでしょ、あのカタブツ落とすのは」
「いや俺はこの上なく楽しかったぞ。はじめは牙をむいていた子猫が懐くようになるまで、じっくり愛していくのは。追い詰められた表情のノアは、それはそれは可愛らしくてな」
「クラウス義兄(にい)さん、愛が重~い」
「ははは、ノアへの愛情の重さならだれにも負けない自信はある」
豪勢な応接間の、これまた豪華なふかふかのソファに腰かけながら、朗らかに会話しているのは、クラウスとノアの弟妹たち。
数年前より、彼らはクラウスの邸宅のひとつにそろって移り住んでいた。
貧しい暮らしから一転、何不自由ない生活を送っている少年少女たちは、みんな健康そうだ。
クラウスは彼らを見てふっと微笑んだ。
そこに、バンッとドアを開けて入っていた女性がいた。
「な・に・を!話してるんだ、このバカ!」
「ノア」
クラウスはノアの弟妹たちとの会話を切り上げ、すぐさま最愛の妻ノアに駆け寄り、慣れた手つきで抱き上げた。
「落ち着け、怒鳴ると胎教に悪いぞ。医者にも言われてたじゃないか」
「~~っ!この詐欺師が!」
「人聞きの悪いことを。ほら、ベッドに戻ろう。まだ熱があるんだろう?」
「ちょ、待て!変なこと弟たちに吹き込むな!」
「わかった、わかった」
ギャーギャーと騒ぐノアをなだめながら、クラウスは奥の寝室に消えていく。
その一部始終を眺めた子供たちは、顔を見合わせた。
「見た?クラウス義兄(にい)の甘々な顔。俺、砂吐きそう」
「結局、ノア姉が結婚承諾しないもんだから、外堀埋めてデキ婚まで持って行ったんだろ?クラウス義兄(にい)の計画通りらしいじゃん」
「完全犯罪とかできそうだよね、クラウス義兄(にい)さん…」
自分たちを極貧生活から救ってくれたのは間違いなくクラウスだし、そこは非常に感謝しているが、いつまでも幸薄い姉にはドンマイとしか言いようがない。
ノアの弟妹達は、一番上の姉の身を案じながらも、豊かで幸せな毎日を満喫していた。
END
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