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プロローグ ~クーラーと扇風機とアイスキャンディー~
天才は実在する。
それが悲しいことなのか嬉しいことなのかは定かではないが、ツチノコやネッシーと違って確実に存在する。
僕がそれを知ったのは、小学三年生の夏だった。
その出会いは僕にとって間違いなく、今後の人生を大きく変える出来事だったに違いない。
高校二年生の今もその天才は隣にいて、つまらない日常や些細な事件を共にしているのだからこれは僕の人生に影響がないとは言い難いだろう。
彼のいない人生を想像してみたりはするものの、それはまあ無為なものなので深くは考えたことがなかった。
とにかくあの天才との出会いは僕の人生を大きく狂わせたに違いない、と僕はアイスキャンディーを舐めながら思った。
現在、八月。
高校生は夏休み真っ盛りだ。
そんな中で僕は、特に予定もない上に今日は記録的な猛暑日だと聞いたので、クーラーと扇風機を効かせた部屋でアイスキャンディーという体内外を同時に冷やす作戦を遂行したところ、あまりにも効果がありすぎて逆に寒くなっている最中だ。
そろそろ扇風機は切ろうと手を伸ばした際に、窓から見えた夏空が僕の回想への入り口だった。
『日向は暑いから』
そんな当たり前のことを言っていたっけな。
僕は扇風機のスイッチをオフにして、それでもまだ寒かったので窓を開けた。
熱気を帯びた夏の風と、蒼より青い夏の空。
そして分厚い入道雲。
そうだ、ちょうどこんな日に。
天才少年と一般少年は出会ったのだった。
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