カモミール咲く窓辺には

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 オバさんは楽しそうに踊っていた。娘の歌に合わせて口を動かしリズムに少し遅れながらも踊っていた。  オバさんに気が付いた娘が歌を止めようとした。 「止めないで、続けて!」  私も一緒に歌った。うろ覚えながらも歌ってみた。そして娘の真似をしてお尻を振りながら踊った。オバさんも少し遅れてお尻を振っていた。 「ハリーフラッシュ!」  娘が最後の決め台詞を言い終えた。  私も疲れたけれどオバさんは肩で息をして出窓にへたりこんでいた。すかさず私はコーヒーピッチャーにお茶を淹れてそうっとオバさんの前に置いた。  オバさんはお茶の香りを嗅ぐと、ニコッと笑顔になった。  今日のお茶はカモミールティーだ。オバさんの大好きなカモミール。  オバさんは両手でピッチャーを持ち、そうっと口を付けた。私達には小さいピッチャーもオバさんからすれば鍋みたいなもので、まるで優勝力士がお祝いのお酒をどでかい盃で呑んでいるような光景だった。  でも飲んでくれた。一緒に踊ってくれた。それだけでどんなに幸せな気持ちになれたかなんて、とても言い表す事は出来なかった。    昼間の出来事を夫に話して聞かせた。娘も必死に父親に語った。どんなに楽しくてどんなに満ち足りた時間を過ごしたのかを。 「オバさんて、もしかしたらオタクだったんじゃないの?」 「え?」 「バブルの頃ってさ、女子大生ブームだのディスコブームだのって言われてるけどさ、その裏ではアニメが結構盛り上がってたよね。同人誌とかも盛んに作られてたし、コミケだって盛大に開催されてた。BLの前身”ヤオイ”なんて文化も発達してきていた時代だったからね」 「……詳しいわね」 「え……、一般常識だろ」  夫のオタク疑惑勃発、である。そう言えば夫が押し入れにDVDを隠してあるのは知っていた。どうせアダルト系だろうからと気付かないふりをしてあげていたが、まさかのアニメDVDなのだろうか。アダルトかアニメか、どっちが良いかと聞かれても答えられない……。
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