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五大長会議より、船震検証委員会が設置され、ドリム大学の教授も招集されていた。
「つまりは、船震は避けられなかったという考えでしょうか?」
「もちろん、ホール理論が正しければという前提にはなりますがね」
「ちなみに質問だが、そのホールは逆流による別宇宙への移動は可能なのか?」
「船の存続は保証できませんが、ホール理論からすればあり得ると」
教授への質問の対象は船震への原因から、ホール理論による別宇宙への移動に対する興味に変わっていた。
「しかし、もし成功しても、どの宇宙のどの場所に移動するか全くわかりません。まだまだ億の年月を要する航路ですが、着実にスター50886493478には近づいていっております。
幸運にもその近くに移動できたとしても、ホールの奧は未知の世界。私達には一瞬でも、結果として時間軸がずれている可能性もあります」
委員の表情は落胆に変わった。ネーム2080同様に、ホール理論に期待を抱いた者が必ず通る道であるようだった。
「・・夢物語の話はもういいか?
興味深い話ではあるが、我々が話し合うべきはこの船と人類の未来ではない。あくまで船震の原因のみ。
しかし、先生の話を聞くに、検証方法はないと認識したが・・」
「検証するとすれば船震現場でホールを探索し、万一見つかったとすれば、そのホールに入ってみることでしょうな」
「それができなければ、今回の原因は不明という結論ということか?」
「あとは私の専門外ですな」
「ーー悲しいことでございましたね」
弔霊師は布団に眠る死者の横で、その家族に優しく声をかけた。
「まさかこんな形で夫を失うとは思いませんでした」
「船内の自然は操作できても、船外の自然は操作できませんからね。概ねの事は予測できるからこそ、今回のような本当の自然災害が起きた時は・・」
「いつの時代でも起きることですから・・。でも、やっぱりショックと言いますか、悔しいですね・・」
死者の妻は大きな息を吐き出した。
「ーーあなた、ちょっと荷受所に出掛けてくるから」
荷受所とは、注文していた物を受け取るための場所。生活に必要な品は家で注文し、荷受所に取りに行くシステムになっていた。
「ああ、気をつけて」
「「気をつけて」って、そんな何にも起こらないわよ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
振り返れば必然であったような偶然の会話であった。
その妻は玄関を出た。中心灯はいつもと変わらず眩しいほどに船内を照らしていた。暑くもなく、寒くもない。個人差こそ若干はあれど、過ごしにくい気候ではなかった。
クーラーボックスを乗せた荷車を押しながら荷受所に向かう。距離としては1キロ足らず。近くはないが、そう遠くはない。しかし、地味に時間が取られる場所にあった。
荷受所はいつも人が多い。注文書を窓口に出し、その横の受取所で荷物を受け取るという単純な仕組み。だが、注文内容毎に窓口が分かれているため、種類が多ければどうしても時間がかかってしまう。
食料品だけでも常温、冷蔵、冷凍で分かれている。運良く人が少なかったとしても、受取所で待たなければならないことが多い。
受け取りを終え、荷車に荷物を詰め込むと帰路に就いた。食料品だけだったが、それだけでも家を出て間もなく3時間が経とうとしていた。
「ーーっ」
その妻は勢い良く後ろに引っ張られたように倒れた。押し潰されたような状態になり、しばらく立ち上がれなかった。周囲にもそうした人の姿がちらほらと見える。
ただじっと待つしかなかった。待っている間、色んなことを考えた。何が起きているのか、死ぬのか、船震予報を見聞きし忘れたのか、夫は大丈夫だろうか、などと。
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