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女神が人となり、小さな村に赤子を抱いて住み着いてから五年の時がたった。陽太と名付けられた赤子は、穏やかに育ったがあまりの気の弱さに母となった女神もほとほと手を焼いた。
朝は元気に外に飛び出すのに、夕暮れには泣きべそをかいて帰ってくる。その理由はいつも村の子にいじめられたと白状してくる。
「また泣かされたのかい?たまには、やり返せばいいのに……」
「やだよ……。殴られるのはいいけど、殴るのはいやだ。だって痛いじゃん……」
そう呟いて部屋の隅で踞る陽太の横には一匹の猫。母猫に置いていかれた子猫を陽太が拾い、そのまま陽太が飼い主となった。
「にゃんがいるから僕は一人でもいい……」
陽太がにゃんと名付けた白い猫も気が弱く、いつも陽太にぴったりと寄り添っている。
「陽太が、にゃんにばかり構うから友達ができないんじゃないのか?」
女神はもう何度言ったか分からない言葉を口にする。
「乱暴な友達なんていらない!にゃんとおっ母ぁがいればいい!」
気が弱いが優しいのは、おっ母ぁと呼ばれた女神はよく理解している。だが、これでは将来が心配だ。
「おっ母ぁだって、いつまでもいる訳じゃないんだよ?少しは強くなりなよ?」
これまた何度も重ねた言葉を女神が口にすると、陽太はいつものように頬を膨らます。
「分かってるよ!」
人となった女神にも陽太にも、人としての寿命がある。せめて己の寿命が来るまでには、陽太を一人立ちさせたい。まだ五つの子供に教え込むのは早いかも知れないが、いつ寿命が来るかも分からないのだ。
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