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それからまた一年の後。村は大雨に見舞われた。何日も何日も降り続き、道はぬかるみ、家屋の屋根は雨漏りに襲われ、村人が耕す田畑の土も泥と変わる。
女神は山に分け入り、陽太に食わす食料を探すがなかなか見つからずひもじい日々を送っていた。家で寝転ぶ陽太だったが文句も言わずにただ雨音を聞いていた。
たまににゃんが鼠を捕まえると、よかったなとにゃんの頭を撫でる。その姿を見ると女神は胸が痛む。母として、陽太にひもじい思いをさせたくはないが、この長雨では思うようにいかない。
川で魚を釣るにも、増水した川に近寄るのは危険過ぎる。なんとか山で食べられるものを採ってきてもほんの僅か。寝転ぶ陽太の背中を黙って撫でるしかない。
「もう雨はやだなぁ……」
陽太はそう呟くが、呟いて晴れるようなら皆が呟くだろう。女神もその陽太を見て、少しでも元気になってもらおうと一つ提案をする。
「お空に祈ろうか?」
陽太はむくりと起き上がって、手を合わせる。
「お空の神様、どうか晴れさせて……」
女神はもう遠い空のことを思い出す。人に落ちるならば、人として生きろと言われたこと。その自分にそんな都合のよいことを祈ってしまう。つい情けなくなってしまう。
もちろん雨は止むはずがない。
「駄目かぁ。おっ母ぁ、どうせ駄目なら最後ににゃんと散歩したい。外に出てもいい?」
女神は、うんと頷いた。
「もういつ死ぬかも知れん。悔いのないようにな」
陽太はにゃんを抱いて外に出る。雨雲に覆われた暗い雲を眺める。陽太の顔にいくつもの雨粒がぶつかる。誰も出歩かない村をにゃんを抱いてとぼとぼと歩いていると雨が当たるのが嫌なのか、にゃんが陽太の手をすり抜けて走り出した。
「にゃん!」
陽太は、にゃんを追いかける。じゃばじゃばと泥を蹴飛ばして走る間、陽太はつい空を見る。
「晴れた……?」
そう思ってもにゃんを捕まえなくてはならない。にゃんを追っていくと、にゃんは一際光が降りる草原に立つ一人の男の子の足元にいた。
「にゃん!!」
にゃんは男の子の脛に頭を擦らせている。
「にゃんが僕以外に懐くなんて……」
男の子は、にゃんを抱き抱えて陽太に渡す。
「この子、君の猫?」
陽太はそう言った男の子の顔をまじまじと見る。
「君……、誰?どこかで見たような顔だけど……」
「あぁ。そうか君か。僕もたしかによく見た顔だと思ってたんだ。まぁ仲良くしようよ」
陽太の腕の中でにゃんがみゃおと小さく鳴いた。
「僕を知ってるの?君の名前は?」
「名前か……。しいて言うなら太陽かな?」
「お日さんの名前出すなんて」
陽太はつい笑ってしまう。太陽のまわりはぽかぽかと温かい。
「太陽が雨止ませてくれたの?」
「かもね」
「ならずっといて!雨より晴れがいい!」
「君がいいと言うなら。君の名前は?」
「陽太!そして、こいつがにゃん!」
「陽太、にゃん、よろしくね。僕はここにいるからいつでも来てよ」
そこで陽太は首を傾げる。
「この村にこんな草原あったっけ?」
「そりゃ僕は太陽だから、このくらい簡単にできるよ」
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