雨、晴れる

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陽太は太陽を変なやつだと笑ったが、すぐに打ち解けて毎日のようににゃんを連れて太陽のいる草原へと足を運ぶ。 その日々は毎日晴れであり、陽太に友達ができたようだと女神も胸を撫で下ろしていた。 「太陽がね!」 夕食のときには陽太が嬉しそうに友達の話をする。長雨のときよりひもじい思いは少なくなった。もう命はないものと思っていただけに女神も陽太も幸せを噛み締める。 「太陽が晴れにしてくれたんだ!」 女神が陽太からその言葉を聞くまでは。 「……太陽が晴れさせてくれたのかい?」 陽太は本当は太陽の神の子。もし太陽が陽太の兄であるならば……。 女神はついそんなことを考えてしまう。考えすぎだろうと口をつぐむが、確かめなければならないとそう心に決めた。 翌日も陽太は太陽のもとへ向かう。女神はこっそりとその後をつける。 陽太がたどり着いたのは金色(こんじき)の草原。その中で男の子と一緒ににゃんと走り回り遊んでいた。それを遠目に見た女神は瞬時に理解した。陽太と瓜二つの太陽。陽太の兄であると。近いういちに陽太に厳しいことを言わないといけないと。 それから雨が降らない日が一月続いた。今度は日照りで草木が枯れだしてきた。 その中でも陽太は、にゃんを連れて太陽に会いに行く。 「なんか大変みたい。晴れが続くのも」 「陽太は晴れはいやか?」 「ううん。雨よりずっといい!太陽に会えるもの!」 「……そうか」 少しだけ曇った笑顔を見せる太陽。 「陽太の心が晴れるなら構わないか……」 その太陽の言葉に陽太は首を傾げる。陽太が太陽のもとに通いだしてから陽太は飢えや渇きを感じていなかった。 その晩、陽太が女神の待つ家に帰ると女神は倒れていた。 「おっ母ぁ!!」 陽太は、すぐに女神の体を揺らす。 女神はうっすらと目を開けて陽太に力なく微笑んだ。 「陽太のためだと思って我慢してたけど、もうしんどいねぇ。もう大分、水を飲んでないから……」 陽太は辺りを見回すが、どこにも水はない。 「おっ母ぁ!どうすればいいの!?」 女神は陽太の頬に手を当てる。その指先は乾いていて、陽太の頬にざらりとした感触がついた。 「陽太、よく聞いて。この日照りは太陽が起こしている。雨ばかりでも晴ればかりでも人は苦しむんだよ。もう太陽に帰ってもらいなさい。大丈夫、陽太はまた太陽に会えるから」 「待ってて!!」 陽太は駆け出した。太陽の待つ草原に。その時に気付いた。すでに夜であるというのに、太陽のいる草原は日が差している。 本当に太陽が何日も晴れを作った人なのだと陽太は確信した。 たどり着いた太陽の待つ草原。太陽は陽太ににっこりと笑いかける。陽太の目に涙が滲んでいた。 「……太陽、もう帰って」 「どうして?陽太が晴れを望んだんじゃないのか?」 陽太はまぶたをごしごしと腕で拭う。 「雨ばかりでも晴ればかりでも人は苦しむって。おっ母ぁが言った!水がなきゃおっ母ぁが死んじゃう!!太陽、帰って!!」 太陽はやはり微笑んだまま。 「そうだね。それは僕も知ってる。ただ僕は陽太と友達でいたかった。僕らは友達かい?」 「友達だ!!でも帰って!!太陽も大事だけど、おっ母ぁも大事だ!!」 叫んだ陽太の頬に涙がぼろぼろと落ちる。 「良かった。いつかまた会えるよ。その時までさよなら」 太陽の体がゆっくりと空に浮かぶ。 「いつか天で」 ふわりと太陽の体が消えると雨雲が空を覆い、ぽつりぽつりと雨が降りだした。 「おっ母ぁーー!!」 陽太は、女神の待つ家へと駆ける。 その背に太陽の声が響く。 「陽太、君は優しい。幸せになるんだよ」 陽太の耳にその声は雨音で消されて届きはしなかった。 了
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