雨、晴れる

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雨、晴れる

「生まれるのか?」 はるか天空のその更に上。神々の住まう天界に命の誕生の前触れがあったのは数年前のこと。太陽の神が子が生まれると、その予兆である虹輪が天界の空に煌めいた。それを見た神々は、凶兆であるとしか思えずに空を眺めた。 「虹輪が二つ……」 太陽の神は、己の子が二人生まれる予兆に眉をひそませる。 「私の子は、跡継ぎは、次代の太陽の神は一人しかいらぬ。一つあればいい……」 太陽の神に従う神々さえ、同じことを考えていた。ならばもう一つの魂は間引くしかないのかと神々が思う中、一人の神が口を開く。 「間引くことに気後れなさるなら、地に落として人の子にしてはいかがだろう?太陽の神からの魂だとしても、魂に変わりはございませぬ。無駄に命を摘み取るのは、我らが神々だとしても容易く行ってよいものではござらぬ。太陽の神が許してくれるなら、後に生まれる魂は私が人の中に紛れて育てましょう。私はもう神の地位にこだわるほどの力もございませぬ。残りの余生を人として過ごすことを許してくだされ」 その者は女神。今も美しくあるが、はるかな時の中で力が衰えているのは太陽の神も承知している。神の最後とは光となって消えるだけ。人々が織り成す神話に姿を表すのも、ほんの一握り。ならば人に落ちて余生を過ごすのも一つの選択だろう。 「いいだろう。だが、お主と連れていく子は亡骸になるまで天界には戻れん。それでも構わぬか?」 「御意」 それから数日の後、太陽の神は二人の男子を授かった。先に生まれた子を跡継ぎとして、後に生まれた子はその日のうちに女神と共に地へと旅立った。 女神と女神が抱いた子を見送る者は誰もいない。それでも女神は腕の中の赤子を抱いて、つい微笑みが漏れる。 「私が母だ。まずはお前の名前を考えないとな」 人として生きることが、これ程に楽しみだとは思わなかった。尚且つ母として生きられる。それは間違いなく喜びであった。
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