エッセー『ぶーぶーが教えてくれたもの』

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 お店に迷惑をかけない程度にはきれいにして、やっと顔を上げたとき、そこで初めて私の視界にも車が見えた。確かに車がそこにはあった。窓の外をローアングルから覗くと、隣の建物の屋上には、車が数台駐車されていた。そこでやっと隣の建物とはカーディーラーだということを思い出した。そうか、確かに彼女の目にはこれがはっきり見えたわけか。  相手の立場になって物事を見てみなさいとは、小学校でもしつこく言われるが、中々ピンとこなかった。小学校の頃、親への感謝を述べる作文の発表会があったが、そのときに『親が叱ってくれること』と書いた同級生の気持ちが分からなかった。ところがそこには確かに違う世界があって、違う目線がある。あのときの優等生と私との間で親をどういう存在で見ていたかなんて、違うに決まっているんだ。それなのにすべての人が同じ目線であることは絶対に有るはずは無いのに、そんな当たり前のことのはずが気づけなくなっていた。  屋上の車を見つけただけの些細な午後の発見が、小学生の頃の私がピンと来なかったことを教えてくれた。そう思うと、ぶーぶーを追いかける彼女を追いかけることは、私自身のためにもなるんだなと思えた。  しかし、当の本人が満足してベビーカーでいびきをかいているのを見るのは不服を唱えたいが。
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