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「特にメッセージはなし、っと」
SNSの通知が何件かあったが、とりあえずそれは後でチェックするとして……。
「チーッス! 生徒会役員でーす。ちょーっと混雑してるんで列の整備させてもらいまーす」
さっき来た時よりも明らかに人が増えた列に辟易としつつ、余計なことを考えないで仕事をすることにする。
忙しすぎるのが逆にありがたかった。だって、昨日は結局ほとんど眠れないほどずっと考え事をしていたのだから。
「ん、電話?」
列整備を終えて本部に戻ろうとしていると、副会長から着信があった。
「もしもし? どうしたんスか?」
『ごめんね、竜也くん。いま手空いてる?』
「大丈夫ッスよ! ちょうどひと仕事終えたとこなんで」
ちなみに、会長と副会長は基本的に自分のクラスでの役割をこなしてもらうことになっている。
三年だしなー。最後の学園祭だし、思い出作ってもらいたいじゃん?
『うちのクラス、メイド喫茶やってるんだけど……。当日になって病欠が出ちゃってね、接客要員が足らなくなっちゃったんだ』
「……へぇ?」
おや? これはあまりにもベタな展開すぎないか?
いやでも、まさかまさか。メイド喫茶だろ?
会長ならまだしも副会長だし、そんな突飛なことは言い出さないだろう。
『竜也くん、女装してメイドさんになってくれないかな?』
だから、こういうのは転校生くんの役目なんだってば!
叫びたくなったのをなんとか耐え、スマホをぎゅっと握りしめる。
「えっ……いやぁ、オレはちょっと女装とか向いてないんじゃないかと思うんですが。どう考えても双子の方が可愛くないっスか? 華奢だし女顔だし」
『そう思ったんだけど、疾風がね』
なんだって? 会長が?
『あいつには可愛い従姉妹がいるから、女装したら似るんじゃないかって……』
「なっ、なるほどぉ~?」
会長め、まだマリアのこと忘れてなかったのか……!
最近はマリアのことを聞かれないなと思ってたけど、まさかこんな時に思い出してくれちゃったのか!?
『でも、無理強いはしないよ。双子ちゃんたちのどっちかでもいいし、竜也くんでもいいし。手が空いてる方でいいから、14時になったら僕のクラスに来てくれる? 手ぶらで大丈夫だから』
「……うっす」
とは言え、ここで和を差し出すのは違う気がする。
ここはオレが身体を張るしかないか?
くっそー、唯と気まずくなってなきゃ喜んで向かわせるところなのに…!!
「竜也」
「……え?」
とりあえず本部へ戻っていると、珍しく遠慮がちな声量で背後から声を掛けられた。
「ゆ、……唯……」
振り返ると、しっかり転校生くん仕様の唯が立っていた。
こいつのクラスは……あぁそうか、クラス展示か。当日は暇できるっていう。
「よ、よぉ…。どうした? ごめん、ちょっといま時間がなくて」
「昨日、ごめん」
どんな顔をしたらいいのかわからなくて早々に切り上げようとすると、それを阻むように腕を掴まれた。
キラキラしているはずの唯の瞳は、眼鏡の奥で可哀想なぐらい曇っている。これは言うまでもなくオレのせい、で。
「ちょっと焦りすぎた……と言うか、竜也がほんとに俺に興味ないんだなって自覚して悔しくなったと言うか」
「え……いや、興味ないなんてそんな」
「ヤキモチ妬いてくれると思ってた、ちょっとぐらい」
……ん?
「ご……ごめん、唯。なに言って…?」
「俺が生徒会メンバーの誰と寝てもなんとも思わないんだもんな、竜也は」
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