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「マリアって名前なのか? 名前まで可愛いんだな」
いやまぁ、そうなるよな。
目を輝かせた会長がじっと見つめてくる。ちなみに唯は手を差し伸べたままだ。
「え、っと…。あの……唯くんがこっち来いって言ってるから私、」
「唯くん!? 下の名前で呼ばせてんのかよ、いったいマリアとどういう関係だ!?」
あんたはいきなり呼び捨てかよ!? オレだってちゃん付けしてんのに!?
って、違う違う! いまはそんなこと言ってる場合じゃ…!
「困ってるだろ、さっさとマリアをこっちに寄越せよ」
「はっ、よくそんな偉そうなこと言えるな? さっきまで俺様の顔に見惚れてたくせに」
「んなっ…!」
オレを自分の背後に隠した会長は、ずいっと唯に歩み寄った。
ん? んん? これは会長×転校生フラグでは??
こっそり様子を窺うと、顔を真っ赤にした唯がわなわなと震えていた。
「いやぁ、まさかあの『唯牙』が男好きだったなんてなぁ? 大人しくするって言うんなら一回ぐらい抱いてやってもいいけど?」
「…っ!」
自然な仕草で唯との距離を詰めた会長は、空いた左手で顎クイをかまして一気に優位に立った。
がっ、眼福…! オレがここに入学してからずっと夢見てたやつだーー!!
「いらない。あんた、どうせ俺相手に勃たないだろ?」
「ん? そんなのヤってみなきゃわかんねーだろ? おまえ、顔はなかなか整ってるしな」
会長が唯の顔を評価した…!?
いいぞいいぞ、その調子だ! 売り言葉に買い言葉、そのままセックスに縺れ込んでしまえばいい!
「オブラートに包んでやってんのわかんないか? おまえが俺を満足させられるわけねーよって言ってんの」
「……は?」
これは神展開すぎるのでは??
凄んだ会長の顔はいままで見たこともないぐらい険悪だ。人でも殺せそうなほどの破壊力で、他の生徒が見たらビビりまくって卒倒でもしそうな…。
でもこの流れは悪くない。
ほら、セーックス! セーックス!
拗らせ腐男子のオレは心の中でスタンディングオベーション状態だ。
会長よ、オレの手を離して唯を自分の部屋に連れ込んでしまえ…!
「かっわいくねーなぁ! ますますマリアを手放したくなくなった!」
「え?」
いやいや、なんで? どうしてそうなる?
そこまで言うなら満足させてやるよ、とでも言って唯を誘うところでは? なぜここでオレを選ぶ?
オレの困惑はこの場にいる誰にも伝わらない。しかし唯は一瞬だけオレと目を合わせ、強引にオレの腕を掴んだ。
「ほら、とっとと行くぞ」
「いってぇ!!」
空いた手で会長の腕を手刀で叩き落とした唯は、怯む彼を放置して一目散に走り去っていく。
いや待て、靴!! オレ、靴履き替えてないんですけど!?
なんてこと言える雰囲気でもなく、唯に引っ張られるまま校舎の方へ……って!
「ゆっ、唯! 待てってば!」
「あぁ!? なんだよ!」
「オレっ! こんな…! コスしたまんま人が多い場所には行けない…!」
会長にはバレなかったが、もしかするとマリアちゃんのことを知ってる奴と遭遇してしまうかもしれない。つまり、コスプレしてるってことがバレるということだ。
コスプレして他校に来るやべぇ奴だと認定されたらマズい。だからと言って正体を明かすわけにも……。
必死の形相を見て、唯は深く溜息をついた。
「じゃあどうしてそんな格好であいつに捕まってたんだよ?」
「うっ……それはその、」
「止めなきゃ、とでも思ったんだろ。俺があいつと修羅場ってると思って」
いや、そりゃそうじゃん? あんな連絡もらったら部屋でじっとしてるわけにはいかないじゃん?
コスプレするよりは時間かからないけど、解除するのだってそれなりに時間はかかるわけだし!
「でも……こうしておまえのコスプレを目の前で見るのも久し振りかも。女装にまで手ぇ出してると思ってなかったけど」
「あー、寮に入っちゃったしなぁ……って唯?」
なぜかまだ手を離さない唯に連れられるようにやって来たのは、寮と校舎の間にある体育館。の、裏にある森だった。
森と言ってもそんなに物騒なもんじゃないけど、確実に人は少ない場所だ。
「あの……怒ってるよな? 派手に喧嘩して縁切ったチームの頭がうちの会長だって黙ってたこと」
つまりはそういうことだったのだ。
確かに唯は進学を機に足を洗ったわけだけど、それと同時期に会長と大喧嘩したらしい。喧嘩と言ってもちゃんとタイマンを張ったわけじゃないらしいから、唯もいちいち顔を覚えてなかったらしく…。
オレはそれを利用して唯をこの学校に導いたのだ。まさか転校初日にバレるなんて思ってなかったけど。
「……怒ってはない。べつに未だにあいつのこと許せないわけじゃないし。ただ、単純に反りが合わないから顔合わせたら言い合いにはなるけど」
「そっか……って、唯?」
いつの間にか木の幹に追い詰められるような形になっていて、オレはそこで唯に身長を抜かされていたことに気付いた。この前会った時は気付かなかったけど…。
僅かに上目遣いで見上げると、ようやく唯が手を離してくれた。
「……とりあえず会長はナシだけど、なんとなく全員堕とせるように頑張るわ。生徒会メンバー全員」
「えっ、まじで?」
うちの幼なじみ、心が広すぎでは?
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