Episode4 フラグはへし折るもの

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Episode4 フラグはへし折るもの

うちの生徒会メンバーは一癖も二癖もある変人ばかりだが(オレを除いて)、実は顧問の教師も結構な変わり者である。 「ウーッス、お疲れー」 放課後。生徒会室に集まりいつものようにみんなで雑務をこなしていると、明らかにハイブランドのものだとわかる深紅のスーツを着た男が尋ねてきた。 ムラなく栗色に染められた髪は先週までグレーだった気がするんだが、毛根は大丈夫なんだろうか? チャラ男設定だからそんなこと口が裂けても言えないが。 「ホスト先生、ちっすちーす!」 「おー。おまえはいっつも元気だなぁ、竜也」 高いスーツをホストのように着崩した彼の名前は真野宗次郎。通称「ホスト先生」である。 彼こそが我らが生徒会執行部の顧問なのだ。 「で、疾風は?」 「会長ならまだ来てないッスよぉ」 「えーっ! なんだよ、疾風に会いに来たのに!」 はーい、これ以上のフラグ乱立はやめてくださーーーい!! 腐男子のオレが頭の中で叫ぶ。これ以上フラグを立てたられたら交通整備が大変だ。 ホスト先生は唯一、まじでソッチの人だ。 腐男子フィルターを抜きにして本気で会長のことを狙っている。 スキンシップ過多だし、この前なんか口と口でキスして会長にブチ切れられてたし…(ちなみにオレは呼吸困難になりそうになった)。 上手く答えられずにいると、副会長が音もなく椅子から立ち上がった。 「真野先生、こちらの書類に目を通していただいても?」 「んー? どれどれ?」 ホスト先生の興味が他に移り、気付かれないように小さく溜め息をついた。 昨日、オレはマリアちゃんのコスをした状態で会長に求愛された。 まぁ、マリアちゃんは可愛いから当然だ。どんな男でも狂わせてしまうからな! しかしオレは見た目だけマリアちゃんに扮したただの腐男子で、恋愛感情を持つのは女の子にだけ。残念ながら会長の気持ちには応えられない。 と言うか、それは会長だってそうだ。つまりオレが妙な嘘をついて誤魔化さなければこんなややこしいことにはなっていないわけだが…。 言えるわけがない! コスプレが趣味だなんて!! まだ男装だったらよかったかもしれない。 でもマリアちゃんの衣装もウィッグもメイクもどっからどう見ても女装だ。オタクですらない一般人に「女装趣味」と「コスプレ」の違いを説明するのはものすごく難しい。 オレはべつに女装するのが好きなわけではない。現にマリアちゃんをするまでは男装にしか手をつけてなかったし! そのキャラが好きで好きで仕方なくて、愛情表現の一種としてコスプレをしているのだ。 もしオレが絵を描くことが得意だったら絵を描いていたし、小説を書くことが好きだったら小説を書いてマリアちゃんへの愛を表現していた。オレの場合、その方法がたまたまコスプレだったってだけだ。 いままで男装しかしてこなかったのも、たまたまコスプレしたいほど好きになってしまったキャラクターが男だったからだ。でもこの感覚が万人に理解されないということももちろん理解しているわけで……。 「竜也先輩、どうしたの? またなにか悩み事?」 「和ちゃん…」 隣に座る和が心配そうな顔をして様子を窺ってくる。 しかしこればっかりは和に相談するわけにはいかない。て言うか、誰に相談するのが正解なんだ…? 「ちょっとね…。予想外の人から求愛されて困ってるだけ」 ので、ちょっとだけ事実を伏せて口に出してみた。 「えーっ! 求愛!? 告白ってこと!?」 「いやぁ、そんな可愛いもんじゃねーんだわ。もっとストレートなこと言われてさぁ」 「ストレートなこと…? 結婚とか?」 「セックスじゃない?」 きょるるんと効果音が聞こえてきそうな表情で首を傾げた和の言葉を遮ったのは、双子の片割れだった。 驚いて彼、梓を凝視すると涼しい顔をして議事録にペンを走らせている。明らかに会議中ではないんだけど、いったいなにを書いてるんだ? 「なんてこと言うんだ、梓ちゃん…」 「違うんですか?」 「いや、まぁ……合ってるけど」 「えーっ!?」 和の素っ頓狂な声が生徒会室に響き渡る。 なにやら話し込んでいた副会長とホスト先生もぴたりと会話を止めて視線を投げてきた。ホスト先生が首を傾げながらこっちにやって来る。 「え、なになに? どしたの、えーっと……梓?」 「僕は和!」 「あれ、また間違えちった」 ごめんねー、と笑いながらホスト先生が和の頭を撫でる。 いやいや、待て! あんたが話に入ってきたら余計ややこしいことに…! 「ホスト先生ー、竜也先輩の話聞いてあげて? 予想外の人からセックスのお誘いを受けちゃったんだって」 「ななな和ちゃあぁぁぁぁーーーん!!?」 「うっるせぇぞ!!」 和があんまりにもドストレートに言うので思わず叫んでしまった。と思ったら、生徒会室のドアが開いてそれよりデカい声が響く。 背中に冷や汗が流れた。 「あん? いまの竜也か?」 「ひゃ、ひゃい……」 我らが生徒会長様の登場だ。 「竜也ぁ、ちょーっとおまえに聞きたいことあるんだわ。ツラ貸せよ」 座った目をした会長に顎でくいっと指示される。これは逆らえない。
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