Episode4 フラグはへし折るもの

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こくこくと頷いて椅子から立ち上がると、満足そうな顔をして踵を返してまた外に出ていく。 これは……ついて行けばいいのだろうか? 「なにかされそうになったら戻っておいでね」 生徒会室から出る間際、副会長がこそっと囁いてきた。 いい人だな、副会長…。腹黒かもしれないけど。 「俺がなに言おうとしてるかわかるよな?」 廊下に出た瞬間、仁王立ちした会長が怖い顔で尋ねてきた。 いやー、出てる出てる。ヤンキーの顔が出ちゃってますよぉ? 「……マリアのことっすか?」 「正解~!」 お望みの名前を出せば、ぱっと笑顔に切り替わった。 ですよねー! それしかないですよねー! 「あんな可愛い従姉妹がいるんなら紹介しろよなぁ! なぁなぁ、連絡先教えてくんねぇ?」 とってもいい笑顔で肩を組んでくる会長は、ぐぐっと体重をかけてわかりやすく圧力をかけてきた。 マリアちゃんの連絡先? そんなのオレだって知りたいんですが?? 「いやぁ、さすがに勝手に教えるのはちょっと…」 「じゃあ聞いてくれよ。連絡先教えてもいいかーって」 「いやぁ~~」 なんで? どうしてこうなった? 会長はいま転校生くんに夢中になってるはずじゃん? なんでマリアちゃん(オレがコスプレした姿)なんだ? 「その……マリアなんですけど、好きな奴がいるみたいで」 もちろんそれはサトルのことだ。 サトマリ(※サトル×マリアの略)しか勝たん! ピエン! 「あぁん? それはこの俺様よりいい男なのか?」 「うぇっ…!」 ぐっと顔を近付けられて、思わず変な声を漏らしてしまった。 オレは唯と違って面食いではないんだけど、イケメンが嫌いなわけではない。しかも会長は推しCPの片方だしな…! 「いや、まぁ……そこそこ?」 「ふぅん…?」 至近距離のままじーっと見つめられて落ち着かない。穴が空くほど、ってきっとこういうことを言うのだ。 しまったなぁ、ほんとに失敗した。よりによって会長にマリアちゃんのコス姿を見られるなんて。 「あのー、それより会長? 転校生の……長谷川くん? 知り合いだったってマジっすか?」 これはなにがなんでも軌道修正しなくてはいけない。 生徒会長が転校生くんを気にかける王道ストーリー。それをこの目で見るために! 「あー、知り合いっちゃ知り合いだな」 眉間に皺を寄せ、すんごくいやそうな顔をされる。 会長はずっと唯を探してたって聞いたけど、やっと見つかって嬉しくないのだろうか? 二人でどんな話をしたんだ…? 「すっげぇ! めちゃくちゃ偶然っすねー!」 「できれば二度と会いたくなかった知り合いだけどな」 「へっ、……へぇ~!」 一瞬緩んでいた会長の怒気がまた復活する。 おいおい、唯さんよぉ。こんな恐ろしい男とどんな喧嘩別れしたんだ? 「あんなダッセェ眼鏡とカツラで変装してる意味がわかんねーけどな、あいつめちゃくちゃ強いんだよ。喧嘩もそうだし、頭もめちゃくちゃ切れる」 とんとん、と自分のこめかみ辺りを指先で叩く会長の顔は真剣だ。 「でも、気付いたら姿を見なくなって…。胸糞悪い別れ方しちまったし、顔も見たくねーけどもしまた見つけたら文句の一つでも言ってやろうかと思っててなぁ」 「へぇ…」 和が言ってたことは本当みたいだ。 会いたくないけど会いたい、ってやつか…。そういうの嫌いじゃないぞ、結構好きなシチュエーションだ。 「言えたんすか? 文句」 「いや、言えてねぇ。……あいつが女だったら良かったんだけどな」 ぼそっと呟かれた言葉を聞き逃すはずがなかった。しかしオレがなにか言う前に会長は去っていく。 それってどういう意味っすか、とか。生徒会室に戻ってくださいよ、とか。 言うべきことはたくさんあったはずだ。しかしオレはなにひとつ口にできず、その場に膝をついた。 『竜也?』 「もしもし、唯!?」 スマホを取り出し、なんとか立ち上がりながら唯に電話をかける。 唯はワンコールで出てくれた。名前を呼ばれるのを遮るよう食い気味に用件を切り出す。 「おまえ、昨日会長となにした!? まさかもう食ったなんて言わねーよな…!?」 二人が接触したのはめちゃくちゃ短時間だったはずだから、疑う余地もなかった。 でも、さっきの会長の言葉。あれはなにかを、いや、ナニかを期待してしまってもおかしくないもので。 『はぁ? あんなわっかりやすいノンケに急に手ぇ出すわけないだろ』 「だ、だよな……」 電話の向こうの唯が不機嫌そうな声で応える。 そっか、違うのか…。じゃあさっきの会長の言葉の意味っていったい? 『キスはしたけど』 「なるほど、キスなぁ! 騙されないぞ、ほっぺちゅーでしたーってオチだろ?」 『いや、口と口で』
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