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今日は梨衣さんも夢鮭も身長を盛っているので、いつもより更に身長差ができていて変な感じだ。そもそも高さのあるブーツだし、梨衣さんはたぶんインソールも入れてるんじゃねぇかなー。
俺も男装する時は多少身長盛ってるから、素の身長が平均以下だとは言えここまで差ができることはなかなかない。
「んじゃ、適当に回ってくか。知り合いに会ったら遠慮なくツーショ(※ツーショット)撮るなり挨拶なりしてくれていいから」
「はーい」
コスプレイベントはいろんな会場で開催されるし、その会場によって趣旨も様々だ。
コスプレを楽しむという大前提はあるけど、たとえば今日の会場だったらがっつり撮影をすると言うよりは交流をメインにしているレイヤーが多い。会場を歩きながら、知り合いに会えばツーショをお願いしたり差し入れを渡してみたり…。
もちろん、コスプレをしていないお客さんから写真を撮っていいかと声をかけられたりもする。
そして、夢鮭ぐらいの名の知れたレイヤーともなると……
「あっ! もしかして夢鮭さんですか!? ツーショいいですか、ツーショ!」
「もちろんいいですよ。先月の撮影以来ですねぇ」
少し歩けばすぐに知り合いに声をかけられる。
すげーなぁ、夢鮭は。なんでこんなすげぇ奴がオレといっしょに歩いてるんだ…?
「ヒイラくん、ちょっとごめん。知り合い見つけたからちょっと行ってきていい?」
「いいっすよー。夢鮭にはあとで伝えとくんで」
梨衣さんも知り合いを見つけたようで、少し離れた場所にいる女の子たちの集団の方へ駆け寄って行った。
女の子……だよな、たぶん。全員男装してるけど。
「いいなぁ、コスプレイベントって」
なんとなく呟いて、様々なジャンルのキャラクターたちのコスプレをするレイヤーたちを見回す。
みんな楽しそうだ。知ってるキャラクターも、どこかで見たことがあるようなキャラクターも、はじめて見るキャラクターも。
非現実的なこの空間は、大袈裟じゃなくもうひとつのオレの世界だ。
ほんとは毎週でも行きたいぐらいだけど、財力には限界があるから仕方ない。
高校卒業したら行けるか? いや、そもそも高校卒業してもコスプレしてるか微妙なところだけど…。
「悪い、お待たせ……っと。梨衣ちゃんは?」
ぼんやりしていると、知り合いと別れたらしい夢鮭がぽんっと肩を叩いてきた。
「あっちにいるよ。たぶんフォロワーさん」
「ん、了解。……あ、そうだ。まだツーショ撮ってなかったよな」
「!!」
スマホを取り出し、流れるような動作で自撮りアプリを開く夢鮭に知らず知らず背筋が伸びる。
夢鮭とツーショ。もう何度か撮ってもらったことはあるけど、未だに緊張してしまう。
「お、お願いしまぁす……」
「なんで急に他人行儀なんだよ」
「ヒェッ!」
笑いながら肩を抱き寄せてくるので、いろんな意味でびっくりして変な声が出てしまった。
それにまた夢鮭が笑う。
「カメラここな。タイマー3秒でーす」
「ままま待て! 表情作れない!!」
「大丈夫だって、すごいニコニコしてるから」
「どっちかっつーとニヤニヤなんだよな、これ…!」
けろっとした顔をした夢鮭が容赦なく自撮りを強行するので、なんとか表情を作ってみた。
……が、案の定そこには「マリア」ではなくただのオレが映っているのである。
「ひっ、ひでぇ顔……」
「そうか? 可愛いと思うけどな」
「それはどうも…。こっちでもいい?」
なんとか表情を作り直し、今度はオレのスマホでツーショットを撮ってもらった。
今度はまだちゃんとマリアちゃんっぽいから良しとしよう。……ウッ、隣の顔が最高すぎる!
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