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今度は夢鮭まで変なことを言い始めた。
「いや、てっきりそうなのかと……腐男子だし」
「偏見がすげーな!?」
オレは推しCPの一部になりたいわけじゃない、背景になりたいだけなのだ。
でも、どうしても腐女子より腐男子は希少価値が高い。実際、恋愛対象が男っていう腐男子も存在するからややこしいわけだが…。
「うちの生徒会、みんなノンケだと思ってたからびっくりしたって話をしたいんだって! 冗談かもだけど、好きとか言われたし…」
「ヒイラくん、ほんまに考えたことないん? 可愛い顔やったら男でもいいかなーとか」
復活した梨衣さんが顔を上げて尋ねてくる。
「うぅーん……ないっすねぇ」
「そうなんかぁ。ま、BLってファンタジーってとこあるもんな」
うんうん、と納得して頷く梨衣さん。
そう、BLはファンタジーだ。いくら女顔で華奢な男がいたとしても、それは”男”なのである。
現実の同性愛者の方々を否定するわけではないが、オレは女の子と恋愛がしたい。ただそれだけ。
「だったら仕方なくね? どうにもできないだろ、ヒイラには」
「そう、だよなぁ」
和は可愛い後輩で、それ以上でも以下でもない。
可哀想だと思って気持ちに応えても、きっといつか和のことを傷付けてしまうだろう。
「話してみるわ、月曜日にも会うだろうし」
「ん、頑張れ。応援してる」
「それで、そのー。ここからが本題なんですが」
爽やかに微笑んでくれた夢鮭の優しい言葉尻を遮るように、若干食い気味で話を変える。
夢鮭と梨衣さんが同時に目を見開いた。
「えっ、いまの本題やなかったん!? 」
「ジャブがキツすぎないか!?」
「あー! ごめん! ほんとにごめん! わかるけども!!」
わかるぞ、ほんとにわかる。でも本当に本題はここからなのだ。
和の告白がどうでも良かったってわけじゃない。
ただ、その後に起こったことの方がオレにとって衝撃的すぎたと言うか…。そのせいで和のことが些細なことみたいに思えたって言うか。
「告白された夜……まぁ、つまり昨日の夜なんだけど」
二人はもうなにも言わない。
怒ってるんじゃないかってぐらい真剣な顔をして話の続きを待っている。
「……幼なじみが部屋に来て、その……泣かれたって言うか」
「それは……性的、に……?」
「梨衣ちゃん、ちょっと黙って」
真剣な顔を崩さないままでそんなやりとりをするもんだから、いい意味で身体の力が抜けた。
小さく息を吐いて改めて二人の顔を見る。
「部屋に入れてもしばらくなにも言わなくて、座ってもいいっつってんのに座らなくて…。どうしたらいいのかわかんなくて困ってたら、急に抱きしめてきて」
唯はクォーターだけど、完全な日本育ちだ。だから、外国育ちあるあるでよく言われるスキンシップ過多ってわけではない。
日常生活で唯とハグだのキッスだのをしたことがあるわけがなく、文字通り固まってしまった。
嫌悪感があったわけじゃない。ただ、驚いたのだ。
「どうした? って聞いてもまただんまり。なんかあったのかなって思うじゃないっすか、さすがにそれは」
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