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***
『ゆ、唯…? もしかして具合でも悪いのか?』
『すごく元気だよ』
全然元気じゃないトーンで返事をされたので、ますます不安になってしまった。
背中に腕を回し、掌であやすように優しく撫でる。
唯には無茶苦茶なことを言ってうちに転校してもらったのだ。もしかするとストレスが爆発してしまったのかもしれない。
『唯、いまの生活しんどいか?』
『……竜也』
『ん?』
ゆっくり顔を上げた唯の瞳にオレの間抜けな顔が映る。
いつも自信に満ちてキラキラしている目が揺れている気がしてドキッとした。
『ご褒美くれないか? おまえの理想の"転校生くん"になれたら』
『え……えぇと、具体的に言うと?』
『くれる?』
言葉を遮るようにして、まるでキスでもされるんじゃないかってぐらい顔が近付いてきた。
唯の右手がオレの頬に触れる。睫毛の本数を数えられそうなぐらいの距離感で、こんな近くで見ても粗が見えない顔の整いっぷりは信じられなかった。
こいつは本当に二次元から出てきた人間なのかもしれない。
『あ……あげる……』
『ん、ありがと』
気付いたら了承してしまっていた。
にこっと綺麗に微笑んだ唯は、すっと距離を置いて立ち上がる。
『楽しみにしとく』
***
「ということがあって…。いったいご褒美っていうのはなんなのかなーってちょっと怖いんすよねぇ」
唯のことだからそんなにめちゃくちゃなご褒美を要求してくることはないだろう。
でも、まっったく見当がつかない。
「……なぁ、ヒイラくん」
「はい?」
神妙な顔をした梨衣さんが右手を上げる。
夢鮭もなぜか複雑そうな顔をしていた。
「幼なじみくん、ヒイラくんの処女をご褒美にもらおうとしてるってことない?」
「……は?」
ナンダッテ????
「いやいやいや、んなことないっすわ! 幼なじみですよ!?」
「幼なじみってだいたいセックスしてるやん!?」
「腐女子はすーぐそういうこと言う~!」
確かに幼なじみは王道CPになりがちだ。
でもオレと唯はそんなんじゃない。
だって、現に唯はいままで派手に男遊び女遊びをしてきたのだ。オレが好きだっていうんならそんなことするわけなくないか!?
「なぁ、ヒイラ。幼なじみくんってヒイラよりは口数少ないタイプだろ?」
「へ?」
顎に指を添えて名探偵のポーズをとった夢鮭が口を開く。
「そう、かも…? べつにそこまで大人しいってわけじゃないけど」
「だったら、伝えられてなかったってことはないか? ずっと好きだったけど、告白するタイミングがなかったとか」
「夢鮭までそんなことを…」
そんなことあるはずがない。
でも、2人が揃って変なことを言うもんだから自信がなくなってきたと言うか…。
「お、オレは……女の子が大好きなんですが……」
男子高校生としてはまともなことを主張するも、2人とも黙って首を振るだけ。
「優しくしてくれるんちゃう? 大丈夫やって!」
「そうそう、男同士の方が気持ちいいとか聞いたことあるし」
「いやいやいや、そういう問題ではなく…!」
オレは傍観者でいたいんだってば!!
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