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Episode6 波乱の学園祭
「だめだよ……僕、竜也先輩のことが好きだから」
だめ、ともう一度首を振る和を見て唯はクスッと小さく笑った。
「だったらとうしてここに? 俺の誘いなんて断ればいいのに」
眼鏡を外してテーブルに置いた唯は、俯く和の頬にそっと触れた。
窓の外ではグラウンドでどこかの部活が練習している掛け声が響き、いつもと変わりない放課後の景色が繰り広げられている。
少し違うのは、生徒会が珍しく休みであること。無人であるはずの生徒会室に、生徒会役員以外の人物──唯がいることだった。
「なごみ、こっち見て」
急に柔らかい声が聞こえてきて、和は恐る恐る目を開けた。
その瞬間、目を見張る。
いつも分厚いレンズに隠されていた男の瞳が、あまりにも不思議な色をしていたから。
「……長谷川、せんぱい」
「唯でいいよ。唯って呼んで?」
「んっ…」
和が頷くのよりも先にその唇を塞いだ唯は、自分より小さなその身体をそっと抱きしめた。
これが和のファーストキスというわけではない。しかし、男とキスをするのはこれがはじめてだ。
──竜也とのキスをのぞいて。
酸素を求めて角度を変えようとすると、その瞬間にできた隙をついて舌が侵入してきた。
「んぁっ…! ちょ、んんぅ!」
目眩がした。つい先ほどまで素顔を知らなかった男とキスをしているこの状況に、満更でもないと思っている自分自身に。
抵抗しようとするも、細身に見える身体からは想像もつかないほどの力で抑えられてしまう。
単純な力の差と言うより、身体の使い方が上手いのだろう。なにか武道でも嗜んでいるのかもしれない。
「ん……かぁーわいい。トロットロになってる」
「は…っぁ、…っもぅ…!」
可愛い、なんてこれまで何度も言われてきた。言われるように振舞ったことだってある。
しかし、唯の言う「可愛い」にはべつの意味が含まれているような気がした。
「ちゃーんとコッチも反応してるみたいだし」
「ぅあっ!」
膝で乱暴に押し上げられ、腰に甘い痺れが走った。キスで昂った身体は素直に快感を拾ってしまっていたのである。
和は睨むようにして唯を見上げた。
「ふはっ、最高! そういう顔もできるんだね、なごみ」
「わっ!?」
和の両脇を掴んだ唯は、急にその身体を持ち上げた。
そのままそばにあった椅子に和を座らせ、目の前に両膝をつく。和は混乱した。
「は…っ? な、なに……を」
「咥えていい? 俺、結構自信あるから満足させられると思うんだけど」
「は!?」
なにを、と聞くほど和は無知ではない。
しかし唯は和の返答などはじめから待つ気がないらしく、さっさとベルトを外してチャックを下ろし始めてしまう。
「ちょっ、やっ、ふざけないで! 校内でこんな…っ!」
「すぐ済むから」
「そういう問題じゃなくて…!」
身体全体が心臓になってしまったように鼓動がうるさい。
しかし、この一線を越えてしまうわけにはいかないのだ。
なんとかして止めなければいけない。和は清く正しい生徒会役員のメンバーなのだから。
「……お願い、俺が我慢できねーんだよ」
下着の上から舌を這わされ、背中が震えた。
急に弱々しい声を発した唯の顔を見ると、不思議な色の瞳が潤んでいるように見えてドキリとする。
「なごみのコレで……俺のこと、めちゃくちゃにして?」
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