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「おまえ、喧嘩売ってるの?」
顔を真っ赤にして怒り心頭の風紀委員長様が目の前で仁王立ちしている。
「えっ、なんで?」
「なんでじゃないっ! 生徒会役員のくせにその髪色はどうなってるんだって話をしてるんだけど!?」
「えぇ~!?」
二日間の祭りということで、オレは早起きして自分で髪色を変えていた。
セルフでブリーチして染めたにしては結構綺麗に色が入ったと思う。毛根が死にそうだけど。
「いいじゃないっスか、ピンク! 可愛くないですか~?」
「風紀を乱しているようにしか見えないんだけど……?」
まさか学園祭の朝にまで校門前に風紀委員長がいると思わなかったな……。仕事熱心でなによりだけど。
と言うか、この人は三年なのにいつまで風紀委員長なんだ? 学祭が終わるまで?
「学祭終わったらすぐ戻しますからー! 明日まで大目に見てっ! ね!?」
「そうだぞ、吉川~。学祭の時ぐらいいいじゃねーか」
「わっ!?」
背後から急に肩を組まれて、何事かと振り向くと我らが生徒会長様が風紀委員長を睨んでいた。
「うちの可愛い会計クンをいじめないでくれますぅ?」
「んなっ…! 人聞きの悪い言い方をしないでくれる!?」
そう言えば、会長もなんかいい香りするんだよな……。
なんだろこれ、やっぱ香水かなにか? そんなにキツい香りじゃないけど、妙な色気を感じるような。
「竜也、どした? ぼーっとした顔して」
「はっ!? いいいいや、べつに!? 大丈夫ですが!?」
顔を覗き込んできた会長が首を傾げるので、慌てて腕から抜け出して距離をとる。
あっぶな! なんかまた妙なフラグ立てそうに…!
「ならいいけど。今日明日と頼むぞ!」
「ウッス!」
そうだよ、唯は会長と結ばれて幸せになってくれればいいんだよ。
オレはうっかり生徒会メンバーになってるけど、本来ならどこにでもいるモブキャラだ。なるべく関わらないようにしていかないと。
「あ、そーだ」
校舎の方へ向かっていた会長がふと足を止め、おもむろに振り返って自分のこめかみ辺りを人差し指でトンっと叩いた。
「髪の毛、すっげぇいいじゃん。ピンク髪、似合ってるぞ」
「……っど、ども……」
イケメンスマイル、まっぶし~~!!
唯で耐性がついているオレは耐えられたけど、周りにいた生徒たちが何人かよろけたのが視界の隅に見えた。あれ、倒れた奴もいる。
「……がんばろ」
なにはともあれ、成功させるぞ! 学園祭!
***
「竜也せんぱーい! 2-Cのお化け屋敷、お客さん捌ききれてないんだって!」
「またぁ~!?」
「ヘルプ出るの3回目だよねっ!」
学園祭の初日、オレは当日起きてしまったあらゆる問題を解決するため特定のポジションに付かずに本部で待機することになっていた。
要するに雑用係ってやつである。生徒会役員なんてこんなもんだ。
「さっき列整備行ったばっかりなんだけど!?」
「そんなこと言われてもねぇ」
報告に来てくれた和が唇を尖らせる。
確かにこれは和に言っても仕方がない。それに、大盛況なのは悪いことではないし。
「わかった、ちょっと行ってくる。和ちゃん、ちょっとここ頼めるか?」
「りょうかーい!」
学園祭のゴタゴタのお陰が、ほんの少しだけ和と前みたいに話せるようになった……気がする。それだけは収穫だ。
2-Cの教室に向かいつつ、スマホのチェックも怠らない。
顔見知りだとオレに直接メッセージを飛ばしてくる可能性もあるからだ。
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