Episode3 季節外れの転校生

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「はせがわ、ゆい…?」 会長がぱっと手を離した。それを受けて唯も会長の手首を解放する。 「おまえ、どっかで……」 「!?」 かと思えば急に唯の肩を掴んで顔を近付けた。いきなりの接近に唯があからさまに動揺する。 やっ、やめろー!イケメンの過剰摂取で唯が死んでしまうー!! オレの訴えは誰にも届かない。声に出していないから当然だけど。 「なっ、なななななにを」 「……いや、あいつはこんな変な顔してねーわ」 ぼそっと呟いた会長の言葉に唯がぱちぱちっと瞬きする。 気付いてない、か? ギリギリセーフ? 「ま、とりあえず放課後に生徒会室な。きっちりお仕置きしてやるよ」 「お仕置き!?」 ひらひらっと右手を振った会長は、もうこれ以上ここで唯に絡むのをやめたらしい。唯が妙な反応をしたのに完全スルーだ。 お仕置きってなんだろ…。絶対唯が期待してるようなことじゃないってのは確かだけど。 「竜也先輩、行くよー?」 「あっ、お、おう!」 あとで唯にフォローしてやんなきゃな…。絶対キャパオーバーしてる。 なんて思っていたら、一足早く唯から連絡が入った。 こそっとスマホを取り出して確認すると、『俺の目に狂いはなかった』との格言が。もうロックオンしたのか…。 「ねぇねぇ、会長ー。お仕置きっていったいなにするつもり?」 どう返事をしてやるかと考えていると、いつの間にか和が会長にくっついていた。 それは是非とも聞きたい。教えて、生徒会長様! 「いや、深く考えてなかった」 そうだ、この会長はアホだった……。 「ただあいつ、なーんか見覚えがある気がして…。それを確かめるってのはアリかもなぁ」 「ふぅん?」 ややこしくなってきたので、そろそろここで状況を整理しておこうと思う。 生徒会長の桐原疾風、そして副会長の美作珠喜は転校生の長谷川唯と顔見知りである。 唯の名前を聞いて会長が反応したのはそのせいだろう。 会長と副会長は地元じゃちょっと名の知れたやんちゃなチームの幹部なのだが、唯はそのライバルチームの頭なのである。唯は高校進学を機に足を洗ったのだが、会長たちは忽然と姿を消した彼を探している──というのは和からの情報だ。 お互い本名を知っていたのかはわからないが、彼らの反応を見るにしっかり把握していないのだろう。でも通り名は本名に掠ってるし、なにか引っかかるものがあったんだろうけど。 ちなみに唯の通り名は『唯牙』、会長は『闇風』で副会長が『喜龍』だ。うぅーん、厨二炸裂って感じ。 「ま、いいや。とっとと昼飯食おうぜ、腹減った」 「疾風は相変わらず自由だねぇ」 動き出した会長たちを確認して、周囲も少しずつ平穏を取り戻していく。 なんか一気に疲れた気がするな…。萌えの過剰摂取がこんなに体力を消費するとは。 「ねぇねぇ梓、なに食べるー?」 「俺はA定食」 「じゃあ僕もそうしよーっと」 それじゃあ俺もA定食にしよう。 今週のA定食はハンバーグがメインだ。金持ち学校ではあるが、学食のメニューはそんなに大袈裟なものではない。 いや、もちろんフレンチだのイタリアンだののフルコースのメニューも存在することはするのだが……。 お行儀よく列に並んで食券を購入し、あらかじめお盆の上にセットされたA定食を受け取る。 校則があるわけでもないのに生徒会メンバーが座るテーブルは決まっているので、席取りに苦労することはない。 申し訳ないなぁと思わなくもないが、生徒会というのはただのアイドル集団ではないのだ。日々地味な雑務や書類作成にも追われているので、これぐらいの特権は許されてもいいはずである。 「あの転校生、制服脱がせたら女だったとかねーかな」 席に座るなり爆弾発言を落としたのは、もちろん我らが生徒会長様である。 「そんな漫画みたいなことあるわけないでしょ?」 「そうだけどよー」 副会長がツッコミを入れなければオレが声を上げていたところだ。 あーあ、なんで会長はこんなに女好きなんだろ。「眼鏡外したら俺好みの顔してねーかな」ぐらい言ってくれてもいいのに。 「竜也先輩、なんで泣いてるのー?」 「悔し泣きしてるだけ…」 「なんで?」
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