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「はせがわ、ゆい…?」
会長がぱっと手を離した。それを受けて唯も会長の手首を解放する。
「おまえ、どっかで……」
「!?」
かと思えば急に唯の肩を掴んで顔を近付けた。いきなりの接近に唯があからさまに動揺する。
やっ、やめろー!イケメンの過剰摂取で唯が死んでしまうー!!
オレの訴えは誰にも届かない。声に出していないから当然だけど。
「なっ、なななななにを」
「……いや、あいつはこんな変な顔してねーわ」
ぼそっと呟いた会長の言葉に唯がぱちぱちっと瞬きする。
気付いてない、か? ギリギリセーフ?
「ま、とりあえず放課後に生徒会室な。きっちりお仕置きしてやるよ」
「お仕置き!?」
ひらひらっと右手を振った会長は、もうこれ以上ここで唯に絡むのをやめたらしい。唯が妙な反応をしたのに完全スルーだ。
お仕置きってなんだろ…。絶対唯が期待してるようなことじゃないってのは確かだけど。
「竜也先輩、行くよー?」
「あっ、お、おう!」
あとで唯にフォローしてやんなきゃな…。絶対キャパオーバーしてる。
なんて思っていたら、一足早く唯から連絡が入った。
こそっとスマホを取り出して確認すると、『俺の目に狂いはなかった』との格言が。もうロックオンしたのか…。
「ねぇねぇ、会長ー。お仕置きっていったいなにするつもり?」
どう返事をしてやるかと考えていると、いつの間にか和が会長にくっついていた。
それは是非とも聞きたい。教えて、生徒会長様!
「いや、深く考えてなかった」
そうだ、この会長はアホだった……。
「ただあいつ、なーんか見覚えがある気がして…。それを確かめるってのはアリかもなぁ」
「ふぅん?」
ややこしくなってきたので、そろそろここで状況を整理しておこうと思う。
生徒会長の桐原疾風、そして副会長の美作珠喜は転校生の長谷川唯と顔見知りである。
唯の名前を聞いて会長が反応したのはそのせいだろう。
会長と副会長は地元じゃちょっと名の知れたやんちゃなチームの幹部なのだが、唯はそのライバルチームの頭なのである。唯は高校進学を機に足を洗ったのだが、会長たちは忽然と姿を消した彼を探している──というのは和からの情報だ。
お互い本名を知っていたのかはわからないが、彼らの反応を見るにしっかり把握していないのだろう。でも通り名は本名に掠ってるし、なにか引っかかるものがあったんだろうけど。
ちなみに唯の通り名は『唯牙』、会長は『闇風』で副会長が『喜龍』だ。うぅーん、厨二炸裂って感じ。
「ま、いいや。とっとと昼飯食おうぜ、腹減った」
「疾風は相変わらず自由だねぇ」
動き出した会長たちを確認して、周囲も少しずつ平穏を取り戻していく。
なんか一気に疲れた気がするな…。萌えの過剰摂取がこんなに体力を消費するとは。
「ねぇねぇ梓、なに食べるー?」
「俺はA定食」
「じゃあ僕もそうしよーっと」
それじゃあ俺もA定食にしよう。
今週のA定食はハンバーグがメインだ。金持ち学校ではあるが、学食のメニューはそんなに大袈裟なものではない。
いや、もちろんフレンチだのイタリアンだののフルコースのメニューも存在することはするのだが……。
お行儀よく列に並んで食券を購入し、あらかじめお盆の上にセットされたA定食を受け取る。
校則があるわけでもないのに生徒会メンバーが座るテーブルは決まっているので、席取りに苦労することはない。
申し訳ないなぁと思わなくもないが、生徒会というのはただのアイドル集団ではないのだ。日々地味な雑務や書類作成にも追われているので、これぐらいの特権は許されてもいいはずである。
「あの転校生、制服脱がせたら女だったとかねーかな」
席に座るなり爆弾発言を落としたのは、もちろん我らが生徒会長様である。
「そんな漫画みたいなことあるわけないでしょ?」
「そうだけどよー」
副会長がツッコミを入れなければオレが声を上げていたところだ。
あーあ、なんで会長はこんなに女好きなんだろ。「眼鏡外したら俺好みの顔してねーかな」ぐらい言ってくれてもいいのに。
「竜也先輩、なんで泣いてるのー?」
「悔し泣きしてるだけ…」
「なんで?」
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