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Episode1 衣装は自作するタイプ
王道生徒会物、というジャンルがある。
ボーイズラブの一次創作をしている小説及びイラスト、漫画サイトなんかで主流になっていたジャンルである。いまはまた違う流行があったりもするけど、オレはとにかくそれが大好きだった。
舞台はだいたい全寮制の男子校。幼稚舎からのエスカレーター式で、都心から離れた場所にあるため「異性との交流がなく育ってきた男たち」が詰め込まれている場所である。
そんなわけあるか、と思うかもしれないがそこはツッコんではいけない。
BLはファンタジー!
リピートアフターミー?
その頂点に立つのはイケメン揃いの生徒会。なぜか教師たちよりも権力を持っていて、メンバー全員が現れたりするとモーゼが海を割ったように道を開けなければいけない。
しかし、そこに現れるのが謎に包まれた季節外れの転校生である。毛量の多い黒髪が目元を隠し、分厚いレンズの眼鏡をかけたイケてない転校生くんだ。だいたいこの転校生はそういった容姿で描かれることが多い。
この転校生くん、一昔前のオタクのような出で立ちだがなぜか度胸がある。生徒会を恐れる雰囲気に気付いているのかいないのか、傲慢な態度をとる彼らに正面切って物申すのだ。
そこからの展開はだいたい想像がつくだろう。いままで王様気取りだった彼らは、素性もよくわからない転校生に対して「面白い」と思い興味を持ち始めるのだ。
そこから始まるのが生徒会×転校生の総受け学園物!
この転校生くん、髪はカツラで眼鏡をとったら美少年でしたーというオチがつく。なんという優良物件!
だいたい最後には生徒会長が転校生をモノにすることが多いかな…。言うまでもなくそれまでの駆け引きとか葛藤が堪らんわけだが!
「……で? 俺にどうしろと?」
夏休みが明け、まだまだ残暑が厳しい9月の中頃。オレは地元の高校に通う幼なじみに会いに来ていた。
久し振りに来る幼なじみの部屋は相変わらず物が少なくて、常に物が散乱しているオレの部屋とは大違いだ。
「いまの話聞いてなんとなくわかんない?」
「いや、なにも。相変わらず拗らせてんなーとしか」
この幼なじみ──長谷川唯は、百人いれば百人が美少年だと評する国宝級の美少年だ。
と言うのも母親が日仏のハーフで、こいつ自身はクォーターってやつなのである。
外国の血は濃いらしく、肌も透き通るように白いし色素の薄い髪は透けるような茶色。こいつとは生まれる前からの付き合いと言っても過言ではないのだが、小さいころはよく女の子に間違えられていてオレに泣きついてきてたっけ…。
「いないんだよ、ワケアリの転校生が」
「は?」
「おまえがなってくんない? ワケアリの転校生に」
「……は?」
実はいまオレが通っているのは、都心から離れた全寮制の男子校なのである。つまり、王道生徒会物の舞台としてはこれ以上ないほど適しているってわけだ。
しかも生徒会メンバーもイケメン揃い。さすがに教師より権力を持ってるってことはないが、会長や副会長には親衛隊なるものが作られている。これもよく見る設定の一つだ。
「いやいや、普通に考えて無理だって! 俺たちもう二年だぞ? 卒業まであと一年半なのに、」
「イケメンハーレム」
唯の話を遮り、一音一音はっきりと言葉にした。
テーブルを挟んで向かい合っていた唯がぴたりと動きを止める。青みがかった薄茶の目がこれでもかというほど見開かれた。
「タイプの違うイケメンたちに迫られる日々……濃厚なプレイの数々……校内公認の関係……」
「いや、なにを、」
「唯ちゃんならなれると思うけどなぁ? なんてったって国宝級の美少年だしぃ?」
投げ出されていた手の甲をつつっとなぞると、びくっと身体が跳ねた。
「幼なじみのお願い、聞いてくんない?」
最後にダメ押し。にーっこり笑うと、ごくりと生唾を飲み込む気配がした。
長谷川唯はオレと違って非オタで、恋人を絶やすことのないパリピに近い人種だ。しかしオレはその秘密を知っている。
「最近ご無沙汰なんだろ? 『オトコ』の方は」
男も女も大好物のバイセクシャル。病的な面食いで、実のところ女ではなく顔のいい男にめちゃくちゃにされたいと願っていることを。
「……顔のいい男にはだいたい彼女がいるんだよ。男なんて相手にしなくても、」
「うちの会長と副会長、いまはフリーって言ってたけどなぁ」
「え!?」
いつもクールな唯が動揺するのはこの手の話をしている時だけだ。
俯きかけた顔がぱっと明るくなる。不思議な色の目がキラキラと光り、こんな顔をされたら逆になんでもしてあげたくなってしまうなーなんて。
……まぁ、会長も副会長も実は唯の知り合いなんだけど。それは黙っておこう。
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