条約の締結

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条約の締結

三好飛鳥(みよしあすか)さん! 俺と……俺と、付き合ってください!」 放課後の体育館裏。ここでは愛の告白をされるか決闘を叩き付けられるかで相場は決まっている。 そして私の場合、なぜか最近前者の理由で呼び出されることが増えていた。 「ご、ごめんなさい。私、あなたとは付き合えませ……ん」 あぁ、申し訳ない。私なんかに告白して、挙句の果てに断られるなんて。 本気で申し訳なくて何度も頭を下げると、私を呼び出した二組の鈴木くんは「いいんだ! いいんだ!」と顔を赤くしたり青くしたりした。 「こっちこそごめん! いきなり呼び出していきなり変なこと言って……」 それじゃあまた! と早口で言って、鈴木くんは校舎の方へ走り去っていった。 その背中を見つめ、私はもう一度「ごめんなさい」と呟く。 「……帰ろ」 中学生になって二度目の夏を迎えようとしていた。 梅雨入りしたせいで最近は雨ばっかり。そんな日が続くとなんとなく気分が落ち込んでしまっていけない。 「あーすーかーっ!」 「わっ!?」 憂鬱で仕方なくて溜め息をつきかけると、背後から誰かが飛びかかってきた。 背中に全体重をかけられ、咄嗟に両足へ力を入れる。 「あっ、ありさ……!」 「やっほーう。まーた告られてたねぇ」 このモテモテめぇー! と頬をつついてくるのは、幼なじみの永野(ながの)ありさ。幼稚園の時からずっと一緒なんだ。 「男の子にモテても嬉しくないだけどなぁ」 「まぁまぁ、そんなこと言わずにさー」 「もーっ、他人事だと思って!」 頬を膨らませて抗議すると、馬や犬にするように「どーどー」と両掌を突き付けてきた。しかも満面の笑みで。 かんっぜんに馬鹿にしてるな……! 「ありさのばーかっ!」 「知ってるよ、そんなこと」 ここで開き直らないでよ……。
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