捨てたもの

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「ずっと楽しみにしてたんだからね!」 上機嫌で私の隣に並んだありさは、心なしかいつもより可愛く見えた。 なんだろう。メイクしてるのかな……? 「そう言えばさー。飛鳥、ちょっと身長伸びた?」 「え?」 自分と私の頭上に掌を滑らせて身長を比べながら、「だってさぁ」と続ける。 「もともと私の方がちょっと大きかったのにさー。目線がちょっと上になったような気がするんだよね」 「……っそう、かな」 ドキッとした。だって、私は小柄だからなんとか女の子になりきれているのに。 押し黙った私をどう思ったのか、ありさがはっとしたように取り繕った。 「だ、大丈夫だよ。大きくなったって言っても、女子の中でも小さい部類に入るしさ! ……それに」 静かに目を伏せたありさは、周りの雑音を物ともしないような凛とした声で私に言う。 「飛鳥が完全に男の子にしか見えなくなったら……おばさんだって認めてくれるよ、きっと」 「……そうかな」 「そうだよ!」 絶対に! と励ますように手を握ってきたありさは、力強い視線で私を見つめてきた。 ありさは強いな。私のことなのに、ありさは関係ないのに。こうして自分のことみたいに真剣に考えてくれるんだ。 「よしっ、この話はここまでにしよう! 今日は久し振りに飛鳥とデートなんだからさ!」 「そうだね、行こうか」 そうだ、そうだ。せっかくありさと出かけてるんだもん。 今日は暗い話はナシ! 楽しもう! 「まだ時間あるからポップコーン買おうねー。あとパンフも!」 私とありさがやってきたのは、市内で一番大きな映画館だ。 ありさが好きな少女漫画が実写映画化になったとかで、今日から上映開始らしい。私もその漫画はありさから借りて読んでるけど、カッコいい男の子がたくさん出てくる……なんだっけ、逆ハー? そんな感じの漫画だ。 タイトルは『イケメン☆ラバーズ』。イケラバ、と呼ばれていて映画のキャストもイケメンばかりで揃えてあるのだとか。
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