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朋也の夢
「ありがとな。安物だから歩いただけで裂けちゃったんだよ」
「うん」
「突然来たからびっくりしただろ」
「うん」
朋也と会話しながら服を繕った。針を扱っているから手元に集中しないと危ない。つい返事が適当になる。朋也は私の父のジャージを着ながら、向かいのソファに座っている。
「はい。できました」
「お、サンキュ。なあ、梨花」
ズボンを着ながら朋也が声をかけてきた。私の手を両手で握る。その手はまだかじかんでいた。
よく笑い、笑顔を絶やさない彼なのに、いまは真剣なまなざしでこちらを見つめている。
「ごめんな。最近おまえに構ってやれなくて。今年のクリスマスはどうしてもやりたいことがあってさ」
「そんな……謝らないでよ。やりたかったことってバイトでしょ?」
さっきまでいじけていたけれど、顔が見られただけで気持ちが満たされたから、自然といえた。気にかけてくれるのはうれしいけれど、我慢しなくちゃいけないって私はわかっている。
「うーん、ちょっと違うんだよなあ。……よし、梨花もついてこい。おまえをひとりにさせるのはイヤだからな」
朋也に連れられて向かったのは町の外れにある小児科だった。裏口から入ると、朋也は『プレイルーム』とプレートが張られてあるドアを開けた。
「メリークリスマス!」
「わーい、トモにぃ!」
「トモにぃ、遅かったよ~」
「今日はトモにぃじゃない、サンタクロースだぞ」
部屋には小さな子供がいっぱいいて、朋也に駆け寄ってきた。みんな白いタイツを履いたり髪をリボンで結んでいたりとおめかししていた。朋也は一番初めに近づいてきた男の子を抱っこした。
朋也の顔は、教室や部活で見るよりも大人っぽくて優しそうに見えた。まるで子供たちの本当のお父さんみたいだ。
「トモにぃ、このお姉ちゃん、だれ?」
「将来俺のお嫁さんになる人だよ」
「なにいってんの、朋也!? お嫁さんってまだ、そんな……」
うれしいけれど、その宣言は早すぎる!?
私と結婚してもいいって考えているのかと思ったら顔がニヤついてしまう。
「俺の大切な人だから、みんな仲良くできるよな?」
「うん、お姉ちゃん遊ぼう~」
手を引っ張られて私は子供たちの輪の中に入った。幼い子の相手に慣れなくてあたふたしている私に朋也がささやいた。
「俺がやりたかったのは、これ。俺はサンタクロースになりたかったんだ」
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