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「えっ、嘘っ、じ、地震?」
とっさにしゃがみ込んで、頭を腕で覆う。
こんなことをしても、上から硬いものが落ちてきたら間違いなく怪我をしてしまうだろう。それでもいいんだ。何もしないよりはマシなのだから。
体を小さく丸めて、辺りの様子を全身で察知する。
揺れたのは気のせいだったのだろうか。どんなに耳を澄ませても、あいかわらず社の周りの空気は静まり返っている。
荒々しい物音も、慌てふためく人々の声もしない。
恐る恐る顔をあげると、すぐそばでお座りをしている白猫ちゃんと目が合った。
「なんか……びっくりしたね。大丈夫だった?」
「にゃー」
大丈夫にゃ。とでも言うように一声なくと、白猫ちゃんが鳥居の方へと歩いていく。
「ねぇ、どこいくの?お爺さんとはぐれちゃうよ?」
辺りを素早く見回すものの、先程まで一緒にいたお爺さんの姿が見当たらない。一体どこに行ってしまったのだろう。
あんなに大切そうに抱いてた白猫ちゃんを、置いて帰るなんてことがあるだろうか。
「あ、白猫ちゃん。勝手に歩き回ったら危ないよ?」
この鳥居の先には、それなりに広い道路があったはずだ。急に飛び出したりすれば、間違いなく車に轢かれてしまうだろう。
とにかく白猫ちゃんを保護しよう。お爺さんを探すのは、その後でも遅くはない。
白猫ちゃんの後を追って、幾つも並んだ赤い鳥居を足早にくぐって行く。
すごい……全部で幾つあるのだろう。数えておけば良かったな。
そんなことを考えながら最後の鳥居をくぐった時、目の前に現れたお兄さんが、慣れた手つきで白猫ちゃんを抱き上げた。
「こんなところにいたんだね。見つからないから心配したよ。ん?」
不意にこちらを向いたお兄さんと視線がぶつかる。途端、言葉に出来ない程の違和感に、私は目を瞬かせた。
「この猫。君の猫?」
「……え?あ、いえ。さっき知り合ったお爺さんの猫ちゃんです。たぶん」
「そうなんだ。
最近、この辺りをよくちょろちょろしてるから、たまにこうして食べ物を持って来てたんだ。
ほら、今日は煮干しだぞ」
お兄さんは着物の袖から、小さな紙包みを引っ張りだすと無邪気に笑った。
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