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「花……ごめんね」
スピーカーから聞こえてくる声は慎ちゃんとは別の——けれど聞き慣れた声。
「謝らなくていいよ。
私が先に慎ちゃんのこと好きって言ったから、莉奈は言えなかったんだよね。
私こそごめんね……」
「花は悪くないよ。悪いのは私。
こうなること分かってて裏切った。
花のこと傷つけてでも、慎ちゃんのことが欲しかった。
私は、友情より愛情を取ったの。
私たち、小さい頃からずっと一緒にいたよね。楽しい時も悲しい時もいつだって3人だった……。
でも、もう嫌なの。私は、慎ちゃんと2人で歩きたい。
だから、花が邪魔だったの……本当に、ごめん」
莉奈と慎ちゃんと私は、幼稚園の時からずっと一緒にいる。
友達という言葉よりも、兄妹の方がしっくりくる。そんな関係だった。
そう。全ては過去形だ。
3人で手を繋ぎ、無邪気に笑い声をあげたあの幼い日々は、もう2度と戻らない。
私は随分と前から、莉奈と慎ちゃんが想い合っていることに気がついていた。私が2人の邪魔をしていることも……。
それでも、私は気づかないフリをした。そして、あろうことか趣味の悪い嘘をついた。
「慎ちゃんのことが男として好きなの。応援してくれるよね?」そう言って微笑むと、莉奈は満面の笑みで頷いた。
私たちの友情は、あの時——見るも無残に壊れてしまったのだと思う。
今は、そのカケラの上を傷だらけになりながら歩いているだけだ。
慎ちゃんは、自分の居場所を守るのに必死だった私を、心底憐れんでいたのかもしれない。
だからあんなにも優しく微笑んでいたのだろう。
「ごめんねは私の方だよ。私が2人の邪魔さえしなければ、もっと早くに幸せになれたのに……本当、ごめんね。
バイバイ、莉奈。今までありがとう」
「こちらこそありがとう。バイバイ……花」
私の、幸せになってね。という言葉に、返事は返ってこなかった。
電話が切れて画面が暗転する——私はその場にぺたりと座りこみ、2人がいない毎日に思いを馳せる。
もしあの時、私が踏みとどまることが出来ていたのなら……。
もしあの時、自分のこと以上に2人の気持ちを考えることが出来ていたのなら……。
もしあの時……。
こんなことを考えるのは無意味だ。
過ぎてしまった時間は戻ることはないし、簡単に無かったことに出来るような便利なボタンも存在しない。
私が積み上げてきた日々は、右へ左へとしなりながら、後は崩れ落ちるのを待つばかりだ。
いつか……まだ幼かったあの日の様に笑い合える日が来るだろうか。
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