episode 1.

188/188
225人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
実際のところ——次はいつ会えるかなんて分からない。もしかしたら、もう会うことなど不可能かもしれない。 それを1番よく分かっているであろう総司が、なんて事のない顔をしていた。だから、私もそれに倣った。 言霊を知らんのか? また会える。また会える。そう言葉にしていれば必ず会える。お爺ちゃん先生のそんな声が聞こえた気がした。 結局、私は総司に何も伝えることができなかった。けれど悔いはない。きっと、離れていても——私たちは繋がっているのだから……。 総司と富山さんの姿が門の向こう側に消えた時——背後から大久保さんの声がした。 「沖田君は顔色も良くなって、身体も少しばかり逞しくなったな」 「そうですね。大久保さんが栄養のあるものを沢山用意してくださったお陰です。ありがとうございました」 「礼には及ばぬ。沖田君はこの子の父親だからな」 大久保さんが私の帯に軽く触れると、目尻を下げて微笑んだ。もう、すっかりおじいちゃんの顔をしている。気が早いですねぇ。 「新選組に帰ってからも、きちんと食事を摂ってくれるといいんですけど…」 新選組は男所帯だ。それ故に、何から何まで大雑把なところがある。其々の任務で忙しいのは分かるけれど、食事だけはきちんと摂ってほしいものだ。 食事が食べられなくなるから甘味はほどほどにね。と、総司に伝えればよかった。 「そこのところは、富山がしっかりと面倒を見ると言っていたから大丈夫だろう。沖田君が忘れていた薬箱も富山がきちんと持って行った。あの2人はすっかり夫婦のようだったな」 総司と富山さんが夫婦——富山さんが聞いたら大喜びしそうなワードに私は思わず吹き出した。 「あはは。富山さんなら、きっと頼り甲斐のある素敵な奥様になるでしょうね」 「沖田には甲斐甲斐しく世話をしてくれる嫁ができたらしいから、花が心配する必要もなくなったな」 「そうだね。これからは、以蔵のお世話に集中できるね」 私の言葉に破顔した以蔵が、優しく、けれど力強く私の身体を抱きしめた。伝わる体温に、思わず頬が緩んでしまう。 幸せで、幸せで、幸せだった。 ——もう1人の私が——目を覚ますまでは——。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!