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episode 1.
——こんなはずじゃなかった。
あまりの息苦しさに思わず立ち止まる。耐えず動かし続けていた両足が、もう走れないとばかりに悲鳴をあげている。
「あー……苦しい……」
そう呟いた時——肩に掛けていた重たいバッグが地面に落ち、鈍い音を響かせた。
バッグの中身はなんだっただろう。確か、割れ物は入っていないはずだ。
今だに混乱している頭で、そんなことをぼんやりと考える。くだらない。実にくだらない。
呼吸を整えようと大きく息を吸い込んだ。
見上げた先——ゆったりと雲が流れていく。
火照った頬を撫でる柔らかな風が心地いい。
最悪だ。最悪だけど、最高でもある。人生は得てしてそんなものだ。
「隠しててごめん……でも、花は俺のことが好きなわけじゃない。それは、自分でも分かってるだろ? 」
不意に、慎ちゃんの言葉が頭に響いた。
分かってる。分かってるよ。
私は——2人を失いたくなかっただけ。
違う。居場所が無くなるのが怖かっただけ。
1人になりたくなかっただけ……。
「結局、1人になっちゃった……」
そんな言葉が無意識に口からこぼれ落ちた時、制服のポケットでスマホが鳴った。
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